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【連 載】CSTが提案するプラントライフサイクルデータマネジメント     
  第3回 テクマスナビによる Dynamic Flow Diagram を通した
      運転支援と安全管理
        千代田システムテクノロジーズ株式会社 土居 謙三 2015.10.10

1. はじめに 

本シリーズの第一回ではプラントライフサイクルデータマネジメント(PLDM)における期待される効果の一つとして、「技術継承の仕組み」「事故へのリスクアセスメント」を挙げている。本稿ではCSTが提供するICT(情報通信技術)ソリューションのひとつであるTechmasNavi(テクマスナビ)による、プラントの運転支援と安全管理の仕組みを提案する。



2. テクマスナビの紹介

CSTは2014年9月に(株)テクノマネジメントソリューションズとテクマスナビの独占販売契約を結び販売を開始した。

テクマスナビはDynamic Flow Diagram®(DFD)と呼ばれる図面形式のユーザ・インタフェースを有する統合データベースである。

統合データベースには機器・配管仕様や標準運転手順書(SOP
)、HAZOP結果などの技術情報を格納できる。これらを様々な形式(PFD やP&ID 、Isometric など)の図面を、DFDを通して、プラント技術情報およびプラント状態が確認出来る。

開発の背景は、「建設時の設計図書が電子化、統合化されていない(プロセスや機器の設計思想が継承されていない)」、「非定常運転時の異常やトラブル発生時の対応力が弱くなってきている」「運転・保全において失敗・トラブル事例が伝承されず同じトラブルが繰り返される」などがある。これらを解決するため、EPC
で利用されるインテリジェントP&IDをより機能的に付加価値をつけたO&M向けの統合データベースとしてテクマスナビは開発された。

  図1. テクマスナビのコンセプト

テクマスナビは大きく分けて3つの機能を有する。
 ① プラント構造を表すPlantNavi
 ② 運転を支援するOpeNavi
 ③ 安全を支援するHazopNaviである。
   以下、それぞれの機能を説明する。

2-1.PlantNavi(静的・動的な総合設備構造情報)
PlantNaviは、DFDを通して、プラントにおける、すべての機器、配管の結合関係や仕様、全バルブの開閉状態、各種起動停止や運転状態をビジュアルに表現でき、更には既存の設備管理システムなど外部システムのデータベースと連携を行うことにより、プラントの静的、動的な情報をダイナミックに活用することができる。
(ISO14224に準拠したデータ管理が可能)

2-2.OpeNavi(運転支援)
OpeNaviは、DFDを通して、運転モードに対応した運転手順を、プラントの各種機器・配管、制御機器などのP&ID上の要素を連携させて明示することができ、SOPの可視化を行うことができる。特にプラントの立ち上げ、停止の運転手順や、バッチ運転の運転手順に対して、手順自体の検証や、プラント立ち上げ時のラインナップやチェックを手動弁の状態を含めて確認できるなど、有効である。

2-3.HazopNavi(安全管理)
HazopNaviは、DFDを通して、安全管理や変更管理におけるプロセスや運転の安全性評価を行う上で重要なHAZOP解析の支援ツールとなる。さらに最終的なハザードと各故障原因の発生頻度、多重独立防護層(IPL)および防護エラーの発生率を関連付けたFTA、リスクマトリクスによるリスク解析・評価も可能となっている。


3. テクマスナビによるDFDを通した運転支援

3-1.プラント運転での課題
事故の多くの原因は、「認知・確認ミス」「誤操作」「誤判断」等の人為的ミスにある。多くの生産設備の運転や保守・保全の現場では、プラント立ち上げや緊急事態などの非定常時においては、ベテラン社員の「経験」「感」「努力」に頼る部分が多くある。人材育成・技術継承において、作業におけるKnow-howの継承だけではなく、なぜその作業を行うかKnowwhy(理由)も含めた継承を行う必要がある。

テクマスナビは、DFDを通して非定常時のSOPを構造化し、その中にKnow-how や Know-why を組込む事ができる。また、蓄積された安全解析情報を基に異常原因推定が可能となる。

   図2. 例)DFDを通したSOPの可視化
 

3-2.人材育成・技術継承
ベテラン社員はプラント建設を経験し、豊富な操業経験を持っており、プラント設計意図を汲んだ運転・保全を今まで行うことが出来ていたが、そのような機会が減った昨今は、DCSによる自動化の恩恵を受けてきた世代である。

テクマスナビでは、建設時の設計段階で検討した設計思想をデータ化することで、形骸化することを防ぐ。例えば、P&ID上計器のタグNo.に紐づけて、設計思想や採用した規格を登録し、いつでも参照することや、プラントの立ち上げ、停止時のバイパス運転を含めたノウハウを登録し、共有することで技術継承していくことが可能である。

OpeNaviは、様々な運転モードや業務において、SOPを準備し、テンプレート化することで運転を支援する。


4. テクマスナビによるDFDを通した安全管理

平成23年以降に続発した石油コンビナート等での重大事故を受け、リスクアセスメントの意義と重要性が増している。設備産業の企業として、事故を防止し、事故が起きた場合においても影響度を最小限にすることは、事業継続のために非常に重要で企業の利益に直結する。

これらの対応として、以下テクマスナビによる
 ① リスクアセスメント と
 ② リスクマネジメントへの適用 について記述する。

4-1.リスクアセスメント
 4-1-1.HAZOP、FTA

リスクアセスメントは「ハザードの特定」「リスク解析」「リスク評価」をすることである。テクマスナビのHazopNaviは連続プロセスのHAZOP に対応し、ハザードの特定が可能である。またFTAやリスクマトリックスによるリスク解析、リスク評価を行うことが出来き、IPLの対策による再解析・再評価が可能である。

 4-1-2.非定常(手順)HAZOPへの適用

HAZOPによる安全解析は、「連続系(定常)」と「バッチ系(非定常)」に分けられる。更にバッチ系は「手順HAZOP」「バッチ反応HAZOP」「ESD HAZOP」に分類される。設備産業ではプラント建設時に安全解析を行っているが、多くは連続系のHAZOPのみを行っている。

近年では、非定常リスクアセスメントの重要性が増してきており、HAZOPにおいては、手順HAZOPによるプラントの立ち上げ、停止時の安全解析が要求されている。

テクマスナビは非定常に関しては、OpeNaviによりSOPを登録する事はできるが、HazopNaviによる安全解析には現在の所対応ができておらず、OpeNaviの操作手順を利用した安全解析を行えるよう改良が必要である。

4-2.リスクマネジメント
 4-2-1. PKY(プロセス危険予知)への活用

通常HAZOP解析結果はExcelシートで管理され、通常運転時に効率的に利用するためにはテクマスナビのような視覚的に優れたツールに展開する必要がある。HazopNaviに蓄積された安全解析情報は、運転部門で行われている申し送りやミーティングにおけるPKY活動として有効である。

また、DFDとヒヤリハット、事故などを特定機器やエリアに関連付けするなど、ハザードマップを作成することで、長期的な周知・徹底を図ることが可能である。

 4-2-2. 変更管理への適用
設備および製造方法(油種やレシピなど)が変更されると、プロセスの状態が変更前とは異なり、今までのリスクから変化する。また、定常の運転状態だけではなく、非定常についても再リスクアセスメントをすることが必要となる。変更前とは異なる新たなハザードを特定することとなる。

テクマスナビでは、P&IDの変更からSOPの変更を経て、HAZOP解析を行うことで、新たなハザードに対して、定性的、定量的な評価を行うことが可能である。


5. おわりに

テクマスナビではDFDを通じてプラント構造と状態を表せる事から、PLDMの基本となる。また、既存CMMSと連携することでプラント情報基盤として利用可能である。DCSやPIMS ⅹⅰからの運転実績データの連携が可能であり、モバイルソリューションCeSMO ⅹⅱを用いてフィールド点検、操作による目視データや状態データをリアルタイムに反映することで、運転やメンテナンスに必要なデータへ容易にアクセス可能となる。さらに、3Dモデルとの連携により、PLDMの中核となるバーチャルプラントを目指していく。

フィールドからの情報連携に関しては、今後第五回で掲載予定のCeSMOで紹介する。空間情報の3D連携に関しては、第二回で掲載したレーザースキャンによる3Dモデルを利用して、今後実現していく予定である。

CSTはテクマスナビの販売を通して、ユーザーニーズに合わせたサービス(製品カスタマイズ、図面変換、データ投入、維持管理、安全支援、運用支援)を併せて提供し、導入後も安心して活用いただけるサポートが可能である。

次回は、PLDMを活用した予備品の調達・管理を紹介する。



  (参考文献)
   高圧ガス保安協会 リスクアセスメント・ガイドライン(Ver.1)平成27年3月価


   ⅰ:Standard Operating Procedure
   ⅱ:Hazard and Operability Studies
   ⅲ:Process Flow Diagram
   ⅳ:Piping and Instrumentation Diagram
   ⅴ:Engineering , Procurement , Construction
   ⅵ:Operation & Maintenance
   ⅶ:Independent Protection Layer
   ⅷ:Fault Tree Analysis
   ⅸ:Distributed Control System
   ⅹ:Computerized Maintenance Management System
  ⅹⅰ:Process Information Management Systems
  ⅹⅱ:CSTが提供するクラウドとモバイルを駆使してプラントのメンテナンスと
     運転を支援するシステム。




             















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