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【連 載】CSTが提案するプラントライフサイクルデータマネジメント     
  第6回 製薬産業におけるPLDM
    千代田システムテクノロジーズ株式会社 圓明 正継 2015.11.25

1. はじめに

本連載では千代田システムテクノロジーズ(CST)が提案するプラントライフサイクルデータマネジメント(PLDM)の考え方について、これまで5回にわたり紹介してきた。
第6回目となる本稿ではPLDMに基づく製薬産業への取り組みとして、製造実行管理システムPAS-Xを紹介する。



2. 製薬工場の特徴

システムの紹介の前に、まず製薬工場の特徴について簡単に整理してみたい。


2-1.製薬工場の形態

製薬、すなわち医薬品を製造する工程を大きく2つに分類すると、薬の有効成分となる原薬を製造する工程と、原薬を人が摂取できる医薬品の形にする製剤・包装工程との2種類に分類できる。

また原薬は、化学合成プロセスによって製造される低分子化合物原薬と、タンパク質や細菌などの生体から培養・精製されるバイオ原薬の2種類に分けることができる。


2-2.GMPとバリデーション
次に製薬工場の大きな特徴であるGMPとバリデーションについても簡単に触れておく。

ご存知の通り、医薬品は人の命に直結する製品である。医師は患者の症状に合わせて適切な医薬品を処方するわけであるが、本来効くべき効果が現われなかったり、
間違った成分が含まれていたりするようなことがあれば、患者の生命の危機を脅かしかねない。

医薬品の製造プロセスにおいて、人為的エラーを防ぎ、一定の品質を保つための規定として、1963年に米国においてGMP: Good Manufacturing Practice が整備され、以後各国でもこれに準じた品質管理基準を法規として定めており、我が国においては、医薬品医療機器等法(旧薬事法)および医薬品および医薬部外品の製造管理および品質管理の基準に関する省令(GMP省令)にて定められている。

GMPでは、組織体制から、製造設備や製造プロセスの管理方法、手順書の整備、製造記録の管理や品質管理、従業員の教育訓練など、医薬品製造に関する全ての活動が規定によって定められている。

またGMPで定められている規定の1つとして「バリデーション」がある。バリデーションとは、「製造所の構造設備並びに手順、工程その他の製造管理および品質管理の方法が期待される結果を与えることを検証し、これを文書とすることによって、目的とする品質に適合する製品を恒常的に製造できるようにすること」
(薬食監麻発0830第1号より引用)である。

コンピュータシステムについても例外でなく、医薬品製造に関わるシステムについては、CSV:Computerized System Validation の基準が同様に省令で定められている。


3. MESパッケージPAS-X

ここでは弊社が取り扱っている製造実行システムPAS-Xについて紹介する。

PAS-Xは、ドイツのWerum IT Solutions社が開発した、製造実行システム(MES: Manufacturing Execution System)パッケージソフトウェアである。前述の通り、医薬品製造工場には様々な規定があり、そこで使用されるコンピュータシステムもGMPに適合したものでなければならない。

Werum IT Solutions社は1990年代の初めから、各国の製薬会社だけでなく規制当局の意見も取り入れながら、ユーザーが使い易いことはもちろん、法規制にも準拠した医薬品製
造工場向けMESパッケージを開発してきた。現在では、世界上位30社の内17社、延べ800サイト以上で使用されており、医薬品製造工場向けのMESパッケージとしては、グローバルなデファクトスタンダードといえるソフトウェア製品である。

本稿ではPAS-Xが持つ数多くの特長の内、
(1)マスターバッチレコード
(2)生産性向上   の2点を中心に紹介する。


3-1.PAS-Xの特長 その1 - マスターバッチレコード
医薬品製造では、全ての生産バッチで同じ品質を確保するために、あらかじめ製造手順を厳密に定義しておく必要がある。システムを利用しない場合は、製造指図およびそれに基づく作業手順を定めたSOP:Standard Operating Procedureによって、作業者は紙の製造指図に対して、製造活動として実施したことを1つ1つ記録していくことになる。

PAS-Xを利用すると、製造手順をマスターバッチレコード(MBR)として定義することができる。MBRはいわゆる製品の処方に相当するものであるが、MBRには原料の投入量はもちろん、作業者が行うべき全ての作業を正しい順番で行うことができるように、フローチャート形式で柔軟に設定する事ができるようになっている。

またPAS-Xと製造設備をOPCなどの通信プロトコルで接続することによって、製造上の重要な実績値を製造記録として取り込むことも可能である。

  図1.マスターバッチレコード作成画面


3-2.PAS-Xの特長 その2 - 生産性向上
システムを使わず、紙の製造指図に従って行う製造では、記録すべきデータの欠損、作業手順の誤り、手計算の誤り、確認サイン漏れなど、人為的なミスの発生を防ぐことが難しい。

PAS-Xでは、製造部門および品質保証部門によって承認された正しい手順によるMBRに従って製造を行うことで、こうした人為的エラーを排除することができる。また、更に製造記録はペーパレスの電子製造記録として管理されるため、紙資源の節約のみならず、紙の記録を保管・管理するためのスペースや手間の大幅な削減を図ることができる。

また医薬品は品質に問題のある製品を誤って市場に出すことがないように、製造部門と独立した組織である品質保証部門の責任者によって、製造上の問題がないかどうかを製造記録の全てが確認されなければならない。

品質保証責任者は市場に対して極めて大きい責任を負っており、製造記録の確認作業は、製品の品質上の重要な特性が規定を満たしているどうかはもちろん、製造記録の1つ1つについて作業者のサインが正しくされているかどうかなど、細部に亘るまで厳密な確認を必要とする。

PAS-Xでは、アメリカ食品医薬品局(FDA)にも奨励されている「例外によるレビュー」の考え方を取り入れ、品質保証責任者の業務負担を大幅に減らすことはもちろん、製品出荷までのリードタイムを短縮することができる。

 図2.大手製薬会社4社のPAS-X導入効果例


3-3.PAS-Xの特長その他
その他にもPAS-Xには、
 ・CSVの対応が容易である。
 ・電子署名・電子記録の規制であるFDA Part11も含む法規制に準拠している。
 ・SAPを初めとするERPシステムや、各メーカーのDCSやSCADAとも
  標準インタフェースを備えている。
など、数多くの特長を備えているが、全てを紹介するには誌面が足りないため、
別の機会にさせていただくこととする。


4. 製薬工場におけるPAS-XのPLDM適用例

前置きが長くなってしまったが、ここで本連載のテーマであるPAS-Xで実現するPLDMの適用例として3.1で説明したマスターバッチレコード(MBR)の設計から建設・運転そして運用後の改善までの各段階でのプラントライフサイクルにおけるデータ活用について説明する。

4-1.プラント設計時点でのPAS-X
PAS-Xの特長の1つであるMBR作成機能は、プラント設計時点から有効に活用することができる。

医薬品製造の手順は厳格に管理する必要があり、承認された製造手順を変更する場合は変更管理基準に則り行われなければならない。そのため、製造設備の設計段階から運用を想定した設計を行うことが、後の変更管理の手間を減らすことに繋がる。

PAS-Xは長年に亘る製薬企業での導入実績を通じて、医薬品製造のMESとして求められる機能をほぼ全て標準機能として備えているため、医薬品製造プラントを新規建設する製薬企業は、プラントの設計段階からPAS-Xを使用する事ができる。

PAS-XのMBR作成機能を利用して、実際の製造手順を想定しながら、どのタイミングで製造設備に対して運転指示を送るべきか、どのタイミングで製造設備から実績データを記録すべきかといったことを、MBRを動かしながら運転手順をシミュレーションすることができる。

PAS-XのMBR機能によって、あらかじめ運転を想定した設計を行うことで、システムの改修はもちろん、製造設備そのものに対する変更も最小限に抑えることが可能となる。


4-2.オペレーションへの展開
PAS-Xを設計段階から活用し、あらかじめ運用を想定した設計を行うことで、システムの運用開始までの期間を大幅に短縮することができる。製薬工場は運転開始できてもMESは運用開始できていないという事例も少なからず耳にすることがあるが、PAS-Xの国内導入事例では、いずれも1年強での運用開始を実現している。


4-3.運用後の改善
本来コンピュータシステムとは、最適な運転手順を実現することをサポートする役割でなければならないはずである。しかしながら製薬工場においては、変更管理やバリデーションの難しさから、一度構築してしまったシステムを変更することは容易ではなく、やむを得ず手作業との並行運用を行ったり、多大なコストを掛けてシステムを維持管理している例が少なくない。

PAS-Xでは、運用上の変更があっても、システムの改造ではなく、MBRの設定変更によって対応することができるため、ユーザー自身によって常に最適な運転手順をサポートするシステムを維持・管理することができる。


5. その他の製薬業界向けPLDMソリューション

本稿ではPAS-XによるPLDMの考え方を紹介したが、本シリーズでこれまで紹介してきたCSTのPLDMソリューション群の統合を考えることによる、将来に向けた製薬工場全体のデータマネジメントインフラを構築できると考えている。

例えばバイオ医薬品製造工場、特に培養工程の設計において、様々な運転パターンに応じたバルブ開閉のシーケンス制御は、非常に複雑かつ重要な設計であるが、第3回で紹介したテクマスナビ(R)を活用することで効率化を図ることができる。視覚的に制御の流れを確認することができ、また配管の一部に変更があった場合も影響箇所の特定が容易であるので、シーケンス制御の変更作業も最小限に留めることができる。

設計時に活用したテクマスナビ(R)のデータは、試運転時の計画作成や作業員の運転トレーニングに活用できることはもちろん、稼働開始後の変更管理や、非定常作業時の計画管理にも活用でき、プラントライフサイクル全般にわたってテクマスナビ(R)のデータを有効活用することができる。

また他のプラント同様、製薬工場においても安全への取り組みや機器・設備の日常点検は重要であり、第5回で紹介したCeSMO(R)を活用することも可能だ。


6. 終わりに

本稿では、CSTの製薬工場におけるPLDMの考え方としてPAS-Xを中心に紹介した。

設計段階で作成したPAS-XのMBRデータが、試運転から設備完成後の運用や変更管理にも活用できることは、プラントの各種データを設備のライフサイクルに亘って活用するPLDMのコンセプトに則った適用例と考えている。

次回は、CSTが取り組んでいるエネルギーマネジメントC-EnMSについて紹介する。



             















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