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【連 載】CSTが提案するプラントライフサイクルデータマネジメント     
  第5回 CeSMO:PDLMにおけるタブレットソリューション
      ~先人の知恵を眠らせない安全への取り組みを目指して~
    千代田システムテクノロジーズ株式会社 水谷 元雅、坂間 金也 2015.11.10

1. はじめに 

熟練技術者不足が顕在化するという懸念は、各分野で引き続き議論の対象となっている。団塊の世代が退職した2007年頃を境に現場力の低下の懸念が言われてすでに久しい。世代交代が進み、いよいよ熟練技術者は各産業の現場の第一線から退き始めている。

2014年度メンテナンス実態調査(公益社団法人プラントメンテナンス協会)(事業所の設備管理業務全体において重要な課題と思われる項目を5つ選択)によれば、設備管理の課題の1位は「人材育成・確保」で90ポイント右肩上がりである。2位「高経年設備対応」の61.5ポイント、「故障の再発・未然防止技術」の54.8ポイントを大きく上回る。


 表1.設備管理の課題

また、同「人材育成の状況」によれば保全技能者に対し「育成できている」はわずかに16.3%、「育成状況に不安 / 非常に不安(あきらめ感)」が、83.7%となっている。オペレータも同様に「育成できている」はわずかに13.4% となっており、技術継承の不安感は高い。

われわれは工場の計装、電気設備のEPC業務のみならず多くの顧客工場に常駐し日常保全工事や定期修理工事、いわゆるメンテナンスの業務にも携わっている。技術伝承、人材育成は他人事ではない。

本稿ではこの課題解決策の一つとして、CSTが提案するPLDMコンセプトの一翼を担う、ITツールでありタブレット端末を活用したソリューションの「CeSMO(セスモ)」の紹介に加え、ベテランの知恵を眠らせず、それをワンポイントレッスン(失敗訓)として現場に生かすシンプルな取組みをご紹介する。懸念、不安を乗り越える一つの仕組みのご提案である。



2. CeSMO:プラントの安全、正確、迅速なメンテナンスを支援する

2-1.CeSMOの前身CAMSS
小型で持ち歩ける情報端末としてスマートフォン、モバイルタブレットが市場にあふれ出したが、以前はPDA(携帯情報端末 Personal Digital Assistant)あるいはハンディターミナルしかなく非常に限定された機能であった。

われわれも数年前にこれをメンテナンスに使おうと考えRFID(radio frequency identifier 所謂ICタグ)とハンディターミナルを用いた保全工事管理支援システム
を作った。CeSMOの前身CAMSS(CST Advanced Maintenance Support System:キャムス)と言う。

CAMSSはサーバでデータを一元管理しハンディターミナルをフロント端末として使う。ICタグを機器に取り付けておけば間違いない機器の特定ができる。


2-2.CAMSSからCeSMOへ
CAMSSの開発・運用を通じいろいろなユーザの声を聞くこととなった。
総じて、「1.はじめに」で述べた不安を具体的に話してくれた。

1)世代交代でベテランの技術伝承ができていない
  正しい作業指示、間違いのない作業ができていない(という不安がある)

2)機器の設置場所が判らない
  隔年、4年定修になって現場に出る機会が減った。
  他所からの応援に定修を頼らざるを得ない。

3)図面や図書を信用できない
  改造、機器更新などでの変更が図面、図書に確実に反映されていない
 (という不安がある)

CAMSSは作業管理の確実さを確保、支援できるが、ハンディターミナルの機能制限から作業指示、設置場所、ドキュメントの取り扱いができなかった。

これら課題の対応を強化し、統合したのがCeSMOである。ハンディターミナルと比較し安価で高機能のモバイル端末とクラウド環境や無線通信環境を駆使してプラントの安全、正確、迅速なメンテナンスを支援するツール、前出の課題をオールインワンで解決するスマートメンテナンスツールである。


CeSMOは課題解決に向け大きく次の3つの機能を持つ。

1)作業管理機能 Pro(プロ)
  確実な現場作業を支援する。エンジニアリング図書を参照できる。

2)機器案内機能 Navi(ナビ)
  Proと連携し、機器場所をプロット図に示し案内する。

3)ライブ映像伝送機能 View(ビュー)
  現場のライブ映像を事務所と共有し指示を仰ぐ。映像を保存する。

 図1.スマートメンテナンスツール CeSMO

CeSMOはメンテナンスあるいはオペレーションでの技術伝承にかかる課題解決を先端シーズで支援するオールインワンのITツールである。すべての機能を使わなくとも良い。ユーザ毎の環境、ニーズに合せカスタマイズも可能である。

CeSMOはPLDMの機能であるテクマスマスナビによる運転支援、安全管理ソリューションや3Dレーザースキャンのデータと連携しシームレスに何処でもこれを利用できる、現場でPLDMを支える目であり手である。今後もお客様の声を反映し、発展させていく。


3. CeSMOを利用したKY(危険予知)、ワンポイントレッスン

CeSMOをご紹介したが、安全操業を行う上で、ベテラン社員の貴重な暗黙知を継承する事が急務となっていることは、工事や作業を実施する作業員(職人)にも言える。作業の安全、品質の確保にかかる知恵を継承するための仕組みがまさに必須である。

過去のトラブルやヒヤリハットの事例を学ぶことが一つの方策である。事例、事象を精査し、分析して原因を挙げ、顕在あるいは潜在するスキル、ノウハウを網羅的に抽出し、思考して学ぶというプロセスが必要である。しかしこの突き詰めて学ぶというプロセスを現場的に、我々の場合は職人レベルまで行うことは至難である。

こうした背景もあり、CeSMOの活用例として、日常ルーティン業務、活動の中で過去のトラブルやヒヤリハットからシンプルにベテランの貴重な暗黙知を身につける取組みを以下にご紹介する。いわゆるCeSMOを利用したKY(危険予知)、ワンポイントレッスンである。



3-1.CSTの安全ツール(グッズ)
トラブルやヒヤリハット事例は間違いなく多くの職場、現場で記録され積み上げている。インターネットで検索すれば厚労省から各種団体まで、代表的で様々なヒヤリハット事例を絵付きで参照できる。われわれの作業、工事の中でも大小毎年200-300件以上が報告される。もちろん、その現場で顧客に提出するものであるが、われわれは毎年これらを全て集計、解析して次の一手に生かす。

   写真1.安全ツールの例
 
    ヒヤリハットを教条的に捉えるのではなく
  ハードウェアにする
具体的には、われわれは、ヒヤリハットの教訓を活かして数多くの利用しやすい安全ツールの開発を長年行ってきた。

モヤサーズ、オトサーズ、オチラーズ、コロバーズ、コブナーズ、コモラーズ、キレナーズ、ササラーズ・・・どんな安全ツールかご想像いただけるに違いない。



3-2.CeSMOで失敗訓、ワンポイントレッスン
さてここからトラブルやヒヤリハットの事例から大先輩の汗と涙を感じ取り暗黙知を顕在知へ変える実践的な現場での取組みをご紹介する。

トラブル、ヒヤリハットはそれぞれに書式、様式がある。通常5W1Hが網羅される。Who(誰が)What(何を)When(いつ)Where(どこで)Why(なぜ)How(どのように)。この貴重で大切な情報、経験を眠らせない、埋らせないためにこれをワンポイントレッスンシートにする。

これをポケットに入るサイズに束ねて持ち歩き、現場のKY、TBMで繰り返し利用してきた。これを電子ファイル化しCeSMOで作業内容や対象機種、作業エリアなどに紐付けて現場で参照する。

電子化する事で数多くの事例を持ち歩き、かつ類似作業の注意点を迅速に参照する事ができる。


 図2.CeSMOで失敗訓ワンポイントレッスン


4. 終わりに

さて本稿では、クラウド技術とモバイルを駆使したCeSMOを用いてプラントの安全、正確、迅速なメンテナンスを支援するツールとこれを利用したKY(危険予知)、ワンポイントレッスンの活動をご紹介した。PLDMの中でCeSMOは現場でこれを支えてゆく目であり、手であるともご紹介した。

PLDMの中では互いのデータをシームレスに連携しこれを現場で生かす仕組みが提供される。保全、運転、設計において生かせるデータが縦割りで活用されずに眠っていないか、ベテランの技術、経験は埋もれていないか。うまく利用、活用することにより技術伝承不足、熟練技術者不在の不安を乗り越えられる。

次回は、CSTが取り組んでいる製薬業界向けのPLDMについて紹介する。




             















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