2022.2.25
ENN2月25日号 特集:中規模プロジェクトで威力を発揮するエンジニアリングIT
成長が期待される中規模プラント、CADベンダーの対応は?
求められる建屋とプラントの空間調整 |
これまでプラントの花形と言えば、LNGプラントなどのオイル&ガス向けのプラントだった。しかし、CO2排出規制などの問題もあり、近年は需要がスローダウンする可能性がある。オイル&ガスプラントに代わって、需要の増加が期待されるのが、ごみ焼却プラントや医薬品製造プラントなどの中規模プラントだ。これらプラントは建屋の中にプラントが設置されるため、建屋とプラントの空間調整が求められる。この新たな需要にどのベンダーが応えているのだろうか。 |
2030年まで高水準の需要が見込まれる、ごみ焼却と医薬品プラント |
2030年頃まで国内のプラント市場では、ごみ焼却プラントと医薬品製造プラントの需要が高水準で推移する。
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2030年頃まで高水準の需要が期待されるごみ発電プラント(写真は日立造船イノバが建設した英スコットランド向け設備) |
ごみ焼却プラントは2000年にダイオキシン規制が強化され、その後、規制に適合したごみ焼却プラントが建設された。
これらプラントの経年年数は20年を超え、最近では建て替え需要が高水準で推移している。これに伴い、最近のごみ焼却プラントの発注量は年間3,000~4,000から5,000~6,000トンに増加している。
一方、医薬品製造プラントの需要も近年、高まりを見せる。需要が増加した最大の要因は医薬品の種類が増加したことだ。かつては、低分子医薬品が中心だったが、バイオ医薬品、核酸医薬品など、医薬品の種類が増えた。
また2020年以降には、新型コロナウイルスの感染が拡大。これに伴い、医薬品のサプライチェーンの見直しが必要になった。従来、医薬品は、「原料は中国、中間体はインドで製造」というようなサプライチェーンを持っていた。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大により、こうしたサプライチェーンは寸断され、医薬品の製造すらままならなくなった。これに伴い、原料、中間体の製造を国内に移転する動きも起こっている。こうした動きが医薬品製造プラントの需要を牽引し、この状況も2030年頃まで続くと言われている。
ごみ焼却プラントと医薬品製造プラントだが、これらは一見、結び付かない。しかし、いずれもプラントが建屋内部に設置される設備だ。
オイル&ガスや石油化学のプラントの多くは、プラントそのものが屋外に建設されるのが一般的だ。こうしたプラントの場合、建屋は不要だが、これらのプラントの需要は最近は限定的だ。
千代田化工建設や日揮ホールディングスが多くの実績を持つLNGプラントも、LNGの需要は引き続き増加傾向にあるものの、CO2排出やフレア対策が求められるようになり、このことがコストアップにつながっている。このため、プラント建設のためのFID(最終投資決定)に時間がかかることが予想され、投資がスローダウンする可能性がある。
その一方で、将来的に成長が期待される燃料アンモニアや水素については、まだ経済性を確保するための生成技術や市場が形成されているわけではない。ビジネスになるのは「2030年以降」と見られている。
これらの状況下、今後のプラント需要を取り込むには、ごみ焼却プラントと医薬品製造プラントは無視できない存在になってきている。そして、こうした中規模のプラントを効率よく建設することが、エンジニアリング企業の業績にも影響を与えることになる。
建屋内部にプラントが設置される場合、建屋とプラントは別々のソフトウェアで設計されるのが一般的だ。別々に設計されれば、建屋の柱と配管がぶつかることもある。かつて、こうした問題には現場合わせによる対応も可能だった。
しかし、最近のようにベテランの作業員が減少し始めると、設計段階で問題を解消しておく必要がある。そこで、設計段階でしっかりと空間調整を行う必要がある。
この空間調整のために、建屋とプラントの設計は、同じフォーマットのCADで設計を統合する。
この設計の統合だが、同じベンダーのCADを使用する場合には比較的に容易にできるが、異なるベンダーの場合、中間フォーマットのIFCに変換する必要がある。この変換の手間が生産性に影響する可能性もある。
例えば、建築設計用の3DCADとして、多く使われているのは、オートデスク社の「Autodesk Revit」である。このため、オートデスク社のプラント設計用の3DCAD「AutoCAD
Plant 3D」を使用していれば、建屋とプラント設計の空間調整は効率よくできるはずだ。
AutoCADベースで開発されている、ヘキサゴンPPMの「CADWorx」についても同じフォーマットで対応できる。
しかし、その他のプラント設計用の3DCADを活用する場合、中間ファイルのIFCに変換する必要があり、この点でワンクッション入れなくてはならない。
また、データについても、多くのベンダーは「属性データまで、変換できる」と強調するが、ユーザーの中には、この点を疑問視する向きもある。
プロジェクトの多様化とともに変化した3DCADソフト |
その一方で、プラントのサイズに伴う問題もある。
例えば、LNGプラントの設計にも使用できる、ヘキサゴンPPMの「SP3D」やアヴィバの「E3D」のような3DCADの価格は数百万円と高額である。この価格は、受注額が数千億円にも達するLNGプラントでは十分に採算は取れるものの、受注額が数十億円から数百億円の場合、採算の確保が難しくなる。
こうした点でも、中規模プロジェクト向けの3DCADを新たに持つ必要がある。
オートデスクは、各種ソフトウェアを年間サブスクリプション契約20万円台で提供している。価格的な安さから、あるエンジニアリング企業は「この価格であれば、協力業者にも購入を求めやすい」という。設計のコラボレーションにおいても、価格の問題は無視できない。
■中規模プラントへの対応と評価
ベンダー名 |
中規模プラント向け対応 |
アヴィバ |
現在、3DCADソフトウェアとして、「PDMS」「E3D」の2つのソフトウェアを保有しているが、「PDMS」は2024年にサポートを中止する。実質的に「E3D」のみの1ソフトになる。プラントのオペレーションソフトを持つOSIソフトを買収するなど、全社的にはプラントのO&Mに傾斜した品揃えを強化しており、事業の軸は比較的に大規模なプラントのライフサイクルのカバーにある。中規模プラント向け対応には積極的とは言えない。 |
オートデスク |
プラント設計の「AutoCAD Plant 3D」、BIMソフト「Autodesk Revit」、機械・装置設計3Dソフト「Autodesk
Inventor」を保有し、中規模プラントの空間調整については、ベストともいえる品揃えをしている。建屋内部にプラントを設置する際のCADソフトウェアという点ではベストと言える品揃えをしている。 |
トリンブル・
ソリューションズ |
構造設計のデファクトスタンダードとも言える「Tekla Structures」を保有しているが、数多くのソフトとの互換性を確保しており、中間フォーマットのIFCを介す必要性もあまり無い。Tekla
BIM sightによる設計のコラボレーションがしやすい。 |
ヘキサゴンPPM |
中規模プラント向け3DCADとして、純国産の「EYECAD」とAutoCADベースの「CADWorx」の2種類を保有。大規模プラント向けの「SP3D」では、高シェアを誇るが、中規模向けでは「EYECAD」が高シェアを誇るが、他ソフトとのデータ連携では、中間フォーマットであるIFCを介す必要がある。 |
今後のエンジニアリング企業にとって、中規模プロジェクトを効率よく実施することは業績に与える影響も大きい。かつてのようなメガプロジェクト対応だけでは、企業全体を見渡した時に、バランスが悪くなる。
かつて、大手のエンジニアリング企業の中には、インターグラフ(現 ヘキサゴンPPM)の話にしか耳を貸さないエンジニアリングIT担当者もいた。
こうした担当者にCADの使用状況を尋ねても、インターグラフのソフトを前提とした話しか聞くことができず、「こいつはインターグラフの回し者か」と、疑ったこともあった。
こうした担当者は「複数のソフトを持つと、コストがかかる」などと発言していたが、多くのベンダーがサブスクリプション契約にも対応している。コスト面の問題も解決しやすくなっている。
現在のように、プロジェクトが多様化しているうえに、様々なソフトウェアが開発されるようになり、販売方法も従来のソフト販売のみならず、サブスクリプション契約も加われば、最高効率を考えるには、積極的な情報収集により、最新の情報を入手する必要がある。特定のベンダーの話だけですべてを判断すれば、その判断が的確な物にならないのは自明のことだ。
ソフトの機能面から契約方法に伴う効率、協力業者の志向まで、様々な要素を十分に検討する必要がある。そして、ベンダーも多様化するニーズにいかに応えるか、日頃から、ソフトウェアの開発や企業買収などによる製品ランナップの拡充を検討すべきである。
これからのエンジニアリング企業はプロセス産業のみならず、加工・組立産業やデータセンターの建設などにも対応する必要がある。幅広い分野に対応することで、業績の平準化を図ることは、今後の、エンジニアリング企業にとっても重要なことだ。
そのためにも多様な人材を揃え、プラントを設計するためのソフトウェアも幅を広げるべきだ。この変化に対応できなければ、市場から落ちこぼれるのは間違いない。
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