2024.2.25
Hexagon ALI ディビジョン 代表取締役社長 大坂 宏 氏
プロジェクト側から運転・保全側へ、ポートフォリオを拡大した
ヘキサゴンALI
運転・保全側の取組を強化、カギ握るコンサルティング力 |
エンジニアリングITの草分け、旧インターグラフを吸収した歴史を持つヘキサゴンALI(アセット・ライフサイクル・インテリジェンス)。
現在は、設計に加え、プラントのO&Mをカバーするソリューションを揃え、プラントのライフサイクルにまで、ポートフォリオを拡大した。
それでも、従来から手掛けるエンジニアリングITソリューションの売上が高シェアを占める。
現在の課題は、運転・保守側の取組を強化することでバランスの良い経営を行うことだ。
ヘキサゴンALIディビジョンの代表取締役社長である
大坂 宏 氏に事業戦略について聞いた。 |
大坂 宏 氏 |
エンジニアリングから運転・保全(O&M)まで拡大されたポートフォリオ |
ENN : |
CADに代表されるようなエンジニアリングITツールは元々、きれいな図面を描くためのツールでした。しかし現在では、プラントライフサイクルに渡って活用されるデータとして位置付けられています。こうした理解でよろしいのでしょうか。 |
大 坂 : |
ヘキサゴンALI(アセット・ライフサイクル・インテリジェンス)事業部全体を見ると、前身のインターグラフの時代にエンジニアリングITツールから始まった会社ですから、数多くの種類のエンジニアリングITツールを保有しています。
例えば、3D CADだけでも「Smart3D」「EYECAD」「CADWorx」といったソフトを保有していますが、現在では、これらをクラウドベースの設備ライフサイクル情報管理(ALIM)ソリューションである「SDx」を介してプロジェクトと設備の運転・保全の情報の一元化の実現なども提案しています。
5年ほど前から、O&M関連のソフトウェアを持つ企業の買収を積極的に行っていますが、その背景には、プラントの設計・建設から運転、保全までのポートフォリオの拡大があります。
現在、当社の売上高の7割はエンジニアリングITツールで占められており、O&M関連の事業は歴史が浅いこともあって、十分に育っているとは言えません。
しかし、このO&M領域の事業を育成して、エンジニアリングITツールと同じように強化する方針で事業展開しています。 |
ENN : |
2021年7月に、ヘキサゴンが、インフォア社からEAM(企業資産管理)ソフトを買収されましたが、あの買収はヘキサゴンがO&Mへポートフォリオを拡大しようとする、意思の表れだったのではないでしょうか。 |
大 坂 : |
その通りで現在、当社はEAMをO&M領域の中心に据えて、エンジニアリングITツールや他のO&Mソフトウェアとの連携を重視するように変わってきました。
その背景には、時代のニーズに沿ってプラントの運転管理、設備保全管理など、オーナー・オペレーター向けに幅広い提案ができるようになろうという明確な方針があります。 |
ENN : |
それ以前の2019年に、ヘキサゴンは運転管理ソフトの「j5」を買収されていますから、以前から、エンジニアリングITの後継事業として、オーナー・オペレーターに寄り添う姿勢が見えていました。 |
大 坂 : |
「j5」は日本では、石油・石油化学産業といったプロセス産業向けに100以上の事業所に納入されていますから、この分野で普及しました。デファクトスタンダードになったと言えると思います。
EAMの買収に伴い、ヘキサゴンはエンジニアリングITツールと運転管理、そして設備保全管理のソリューションを持つことになります。
これらのソリューションをSDxを介して連携することで、設備のライフサイクル全体をサポートするソリューションを提供することが可能となりました。 |
ENN : |
運転管理ソフト「j5」で実績を上げた石油・石油化学産業には今後、どのようなソフトを売り込みますか。 |
大 坂 : |
運転手順書やメンテナンスマニュアルなどを扱う手順書管理のソフト「AcceleratorKMS」があるのですが、このソフトへのニーズが高まっています。
現在、御客様が紙やオフィスソフトを使って作成した膨大な数の手順書は、その確実な実行や最新版管理が非常に難しいという問題に直面しています。
また現場でも、ベテランの運転員や技術者が減少していますから、誰が運転操作や保全作業をしても同じような結果になるには、手順書がしっかりしている必要があります。
国内でもニーズが高まっていますから、このニーズに応えようと考えています。
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ENN : |
日本の現場は、アナログが強いために、いまだに紙の手順書に頼っているのでしょうか。 |
大 坂 : |
たしかに、いまだに印刷した紙に頼っているお客様は多くいらっしゃいます。日本のオーナー・オペレーターにおいて、運転操作や保全作業の使用する手順書のデジタル化はこれからの重要な改善テーマの一つです。
まずは現在保有している手順書の適正化が必要です。そのうえで、優先順位をつけて、モバイル機器等を活用した手順書管理ツールの導入は経験の少ない若手運転員や技術者にとってヒューマンパフォーマンスを引き出す有効なツールになると考えています。 |
ENN : |
エンジニアリングITから、設備のライフサイクル管理まで、同じプラットフォーム上でつながるわけですね。 |
大 坂 : |
ヘキサゴンのビジョンは、「スマート・デジタル・リアリティ」です。
元々、ヘキサゴングループには、ライカのレーザースキャン部門を買収して得たレーザスキャニング技術もありますし、ポジショニングにも優位性があります。高精度のGPSも製品とし
て保有しています。
リアルな物をスキャンして、われわれが得意とするデジタルの世界に持ってきて、その上で設計やシミュレーションを行います。
レーザースキャンやポジショニングなど現実の世界をデジタル化するソリューションは、別の部門が取り組んでいますが、ヘキサゴンALIとしては、こうしたソリューションをプロセス産業で活用する取組を展開しています。 |
ENN : |
ヘキサゴングループ全体のソリューションを活用して、安全性、品質を高め、効率、生産性を向上するのですね。 |
大 坂 : |
これらを実現するために、どのようなシステム構成にするべきか、という課題に向かって、動いています。
プロジェクト側は、デジタルプロジェクトに取り組んでいて、具体的には基本設計・詳細設計・調達・建設を行いますが、そのデータを、デジタルバックボーンを介して、運転側に展開するようにします。
その運転側には、「j5」や「AcceleratorKMS」のような運転管理を支えるソフトがあります。さらにEAMも連携しようと今整備しています。 |
ENN : |
具体的には、どのようにつなげていくのですか。 |
大 坂 : |
つなげるために、クラウド環境を整備したり、時にはAIやロボットが必要になるかもしれません。
ヘキサゴングループはライフサイクル全体に渡り、様々なソリューションを保有しているため、データを収集する、業務をつなげる、情報を一元化することができ、そこがわれわれの強みです。 |
ENN : |
たしかに、ITツールを活用すると、生産性は向上すると思いますが、日本では普及が遅れているように思いますが。 |
大 坂 : |
米国では、当社の製品の7~8割がSaaS(Software as a Service)環境で構築が進められています。
しかし日本では、SaaSではほとんど導入が進まず、オンプレミスやAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)やAzureなどのクラウドサービスでの導入が主流です。
SaaSでは、クラウド環境で定期的にソフトウェアがバージョンアップされますが、オンプレミスでは、バージョンアップの頻度が少ないです。
ヘキサゴンALIでは、全世界の複数拠点で24時間サポートしていますから、SaaS環境でソフトウェアを使用していただければ、定期的にサービスが受けられます。
この環境を活用することで、御客様も効率よく新しい機能を活用できますから、是非、SaaS環境の活用を検討していただきたい。 |
ENN : |
プロジェクト側から運転・保全側へと事業領域を広げるうえで、特別に取り組まれていることはありますか。
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大 坂 : |
ヘキサゴンALIでは、「バリュー・セリング」を強化しています。
プロジェクト側ではメガプロジェクトに対応できれば、売上も上がりましたが、オーナー・オペレーター側ですと、そうは行きません。
そこで求められるのが、信頼できるパートナーとしてのコンサルティング力です。
現在、ヘキサゴンALIの日本法人では、コンサルタントを増やしています。経験と実績が豊富なシニアのエンジニアも採用しています。
多くの知見をお持ちの方がいらっしゃいますから、御客様の話をじっくりと聴いて、そのうえでソリューションを提案するのが一つの戦略になっています。 |
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1979年新潟大学工学部化学工学科を卒業。
石油精製エンジンニア、産業用リアルタイムシステム構築システムエンジニアを経て、1992年にプロセスエンジニアリングとシステムエンジニアリングを融合させたエンジニアリング・サービスを提供する大坂システム計画を創業。2009年、国内にj5を導入する。
現在はヘキサゴンALIで国内ビジネスの責任者を務める。2021年4月、Hexagon ALI ディビジョン
代表取締役社長。 |
大坂 宏 氏
(おおさか ひろし)
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