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 2023.10.6
 デジタルメンテナンスの現在地
 重要なのは「保有技術とニーズの適合」

 デジタル技術の発展とともに、プラントメンテナンスにおけるデジタル化も着実に進んでいる。ここでの技術だが、最近の技術開発で市場に登場したのは、ハイスペックな技術ではなく、ニーズに応えながら、それを低価格で提供する技術だ。またメンテナンスの施工を手掛けてきた企業は、EPCへの事業展開を模索するが、そこで求められるのはメンテナンスや施工で培われた技術を活用するソリューションだ。保有する技術とニーズを適合させること、これが最も強く求められている。

社会全体のデジタル化が進むのに伴い、メンテナンス分野においても、デジタル技術への関心が高まっている。

日本プラントメンテナンス協会(JIPM)が9月に発表した「2022年度メンテナンス実態調査報告書」の内容から、関心の高まり具合が分かる。

情報技術導入と生産活動 -関心ある新技術分野 

2021年度から2022年度に、関心が高まった分野は、「AIによる故障予兆監視・予測」が2021年度の59.5%に対し、2022年度は67.8%となった。「工場内ネットワークシステム」も48.3%から50.4%へと高まり、「VR・AR・MR等画像解析」が28.8%から43.5%、「監視・点検用ドローン」が27.8%から33.5%、「高度シミュレーションソフト」17.1から19.1%へとそれぞれ関心がそれぞれ上昇した。

関心が下がったのは「現場用タブレット、ハンディ端末」(74.1%から69.6%)、「作業ロボット」(30.7%から27.8%)の2分野にすぎない。「現場用タブレット、ハンディ端末」は以前から普及しており、徐々に関心が下がったと見られる。また「作業ロボット」についても、ロボットそのものの開発がまだ途上であり、購入するとしても高額であることが予想されるため、関心が高まりにくいと見られる。

しかし、その他の分野については、メンテナンス現場の人手不足が深刻化しているうえに、デジタル技術の進化により、メンテナンスの業務を効率化したり、現場の負担を軽減できる機器・装置に加え、ソフトウェアも進化しており、現在のメンテナンスの現場には、デジタル技術の適切な活用が不可欠な状況にある。


作業負担を軽減する技術が登場

3Dレーザスキャナは、技術的に発展した装置の一つである。

3Dレーザスキャナは、3Dモデルを所有していないプラントからモデルを作成するのに使用されてきた。3Dスキャナで点群データを取得し、点群から3Dモデルを作成、このモデルを活用して効率的なメンテナンスが実施できた。

最近では、点群データから、必要な箇所を抽出し、点群を活用するサービスも行われている。本特集で取り上げた、日揮グループのブラウンリバース社は、配管ルートを抽出している。この方法により、短時間かつ低コストでユーザが求める配管ルートを提供している。このサービスを「ファストデジタルツインサービス」と名付け、短時間かつ低コストでデジタルツインを提供している。

このサービスに活用されているのが、独NavVis社のスキャナだ。同社のスキャナは体に装着して、プラント構内を歩きながら、データを取得するものだ。手軽かつ迅速に3Dの点群データを取得できるため、最近、ユーザを増やしている。

NavVis社のスキャナ
(開発元:NavVis社、日本販売店:構造計画研究所)
 

これまで3Dスキャナで精度の高いデータを取得するには、スキャナを固定する必要があった。しかしNavVis社のスキャナでは、その必要がなく、比較的に容易に3Dスキャニングデータが取得できる。

かつて、3Dスキャナから取得される点群データは、その容量が重く、ハンドリングが難しかった。十数年前には、点群データを取り込むと、ワークステーションがフリーズすること珍しい事ではなかった。

また、点群データから3Dモデルを作成しても、ユーザが求めるのは、配置などモデルの一部であることも少なくなく、点群データから、3Dモデルを作成せずに、必要なデータを取得しているケースも少なくない。

ブラウンリバース社の「ファストデジタルツインサービス」は、ユーザの求めに、短時間かつ手軽に対応するサービスと言える。

また千代田化工建設は、今年9月から「plantOS」と呼ばれるメンテナンスサービスを始めたが、ここでも3Dデータの処理に米Visionaize社のソリューションが使用される。このソリューションでもデータを手軽に処理できる。データのハンドリングの容易さは、デジタルを活用するメンテナンスサービスにおいて、重視されている。


施工中心に展開してきた企業がデジタル活用でEPCに本腰

デジタル活用は、これまでメンテナンスやプラント建設の施工を手掛けてきた企業にとっても、新たにEPCに参入するうえで、重要な意味を持つ。

高田工業所は、これまで、メンテナンスおよびプラント建設の施工を中心に手掛けてきたが、国内メンテナンス市場が今後、縮小するのに伴い、このところ、EPCへの本格的な参入を目指している。今年4月には、EPC本部を発足した。

これまでメンテナンスで培ってきたノウハウを武器にEPC展開を目指す。その中で、オートデスク社のレビューソフト「NavisWorks」を活用、3Dモデルとの整合性を確認し、EPCの効率化に活用する。

またレイズネクストは、2018年9月に、メンテナンスを主体とする旧新興プランテックとエンジニアリング中心の旧JXエンジニアリングが合併して発足しているが、エンジニアリングとメンテナンスを両輪に事業展開できる企業となった。

こうした中で、設計の効率化を図る目的で、オートデスク社の「Plant3D」を中心とした3DCADを揃えた。オートデスク社では、「Plant3D」のほか、建築設計の「Revit」、機械設計の「Inventor」が扱われているが、ソフトウェア間のデータ互換性が良い。

また最近は、中規模で建屋内部にプラントが設置されるようなケースも増えている。こうした条件にあるプラントを建設するうえで、オートデスク社のソリューションを合わせて使うことで効率向上が可能だ。

一方、施工に軸足のある山九は、自社開発のソリューションで生産性の向上を目指している。進捗管理システム「SX-Progress」や「重機配置システム(SX-Layout)」を自社開発している。

また2020年3月に、グループ企業の日本工業検査、ドローンによるサービスを提供しているルーチェサーチ社と共同で、ドローンを活用したプラントの検査サービスにも進出した。ドローンはフレアのトップなど、これまで目視できなかった箇所の画像を取得する手段として活用できる。ドローンの普及に伴い、新たなサービスが開発され、これらを事業に取り込んでいる。


必要なのは、ニーズに適切に応える技術

新たなツールやソフトウェアが開発されることで、従来は考えられなかったようなメンテナンスサービスが生まれている。

3Dスキャナについても、以前は、計測精度に誤差があったことから、使用に慎重になる向きが少なくなかったが、欧米では「精度が低くても、メンテナンスには使用できる」と評価、必要な箇所に積極的に活用した。

メンテナンスにデジタルデータを活用する場合、建設に求められるほどの高い精度が求められないケースが多い。それならば、必要なデータを容易に提供できる仕組みが作られる必要がある。

求められるニーズに的確に応える技術が必要なわけで、オーバースペック気味のソリューションが必要なわけではない。

デジタルメンテナンスの現在地は、ニーズに応えつつ、それを手軽かつ低価格で提供するところにある。

ハイスペックなソリューションよりも適切なソリューションが求められる。これが、デジタルメンテナンスの現在地と言える。



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