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 2023.5.25
 「設備データ統合管理システム」が拓く世界
  ライフサイクルに対応、時系列を超えた最適管理を実現

 プラントのデジタルデータは、設計、機器、配管などの部位単位で、専門のシステムで管理され、いずれも部分を最適化するうえでは、効果を発揮してきた。しかし各部のデータがひも付けられ、連携されれば、そのプラントの設備管理の効率が格段に向上する。仮に、配管のトラブルが発生すれば、その設計データを確認することで、トラブル原因を突き止めやすくなる。サイロ化されたデータを統合的に扱える「設備データ統合管理システム」が開発され、プラントのデータ統合管理は劇的に変化しようとしている。

確実に成長する生産設備のデジタル化市場

生産設備のデジタル化は近年、国を問わず、世界的に進んでいる。

日本も例外では無く、矢野経済研究所が4月26日に発表した「国内の工場デジタル化市場予測」によれば、2021年度に1兆6,760億円だった市場は、2024年度には10.4%増の1兆8,170億円と増加し、さらに2027年度には25.7%増の1兆9,820億円と増加する見通しだ。

国内の工場デジタル化市場予測 
出所)矢野経済研究所

市場が拡大する理由として、矢野経済研究所は「生産設備・機器の保全やライン稼働監視などで、IoT/クラウド、AIなどを使った収集データからの異常検知・故障診断、稼働監視/遠隔モニタリング、設備保全の高度化、省エネ用途/エネルギー使用量の『見える化』といった次世代型のメンテナンス導入が始まっている」と指摘している。

矢野経済研究所の調査対象は、国内市場だが、世界的にデジタル技術は普及しており、大規模装置を操業する石油・ガス、石油化学、電力などの業界においても、例外ではない。

その背景には、コンピューターの処理速度が加速すると同時に大容量化したという技術的な進化がある。

一方、プラントを操業するオーナー側も、効率的な操業を実現するために、設備管理に多くの人材を投入できないため、プラントの監視にデジタル技術の活用を促進しているという状況がある。

ニーズの変化とテクノロジーの進化により、プラントの管理のデジタル化は急速に進んでいる。


ライフサイクルデータを時系列を超えて連携

プラントのライフサイクルには、設計・建設・操業といったフェーズがある。この各フェーズを管理するデジタル技術はすでに確立されており、その使用が当たり前になっている。

例えば、設計には、3次元CADなどのエンジニアリングITツールが使われ、エンジニアリング・テクノロジー(ET)として活用される。また、プラントが稼働時期に入れば、EAM(企業資産管理)が使用中の機器の管理を行う。

さらにプラント稼働時のデータは、OT(オペレーショナル・テクノロジー)によって管理される。このOTにおいては、稼働状況をプラントのDCS(分散型制御システム)や各種センサーにより収集できる。

このように、プラントのライフサイクルは、設計・建設・操業のすべてのフェーズで、デジタル技術でカバーできるのである。

しかしこれらデータが、フェーズ毎に保有されている場合、その導入効果は限定される。ETであれば、設計段階にしか活用されないし、OTは操業時の生産性を向上できるだけだ。

しかし、これらデータが連携できると、生産性が大きく向上する。

例えば、ある配管がトラブルを起こしたとしよう。この時、その配管の設計や過去のメンテナンスのデータが紐付いていれば、配管のトラブル原因を迅速に追究できる可能性が高まる。

また、プラントで使用されている機器でトラブルが発生した場合でも、過去のトラブル事例や設計情報を取得できれば、トラブル原因を突き止めやすい。

ET・OTに加え、ITの各フェーズのデータは、サイロ化されているが、これらデータが連携されていると、操業やメンテナンスの効率を向上できる。

こうしたシステムが開発され、最近では導入ケースが増えている。


AVEVAがM&Aでライフサイクルに業容を拡大

AVEVAは3次元CADなどのETで、豊富な実績を持つベンダーだった。しかし2017年から展開したM&Aにより、プラントのライフサイクルを扱うソリューションを提供するベン
ダーに変貌した。

2017年に仏シュナイダーエレクトリックが戦略的パートナーとして、AVEVAの株式の60%を取得。そして2018年には、シュナイダーエレクトリック社のソフトウェア企業とAVEVA
が合併した。この合併により、AVEVAの持つ3次元CADとシュナイダーの持つプロセスシミュレーターを統合した「Unified Engineering(統合設計)」が展開されるようになった。

さらにAVEVAは、2021年4月に、時系列データ管理ソフトウェア企業であるOSI Softと経営統合した。OSIは、2万社以上が導入した「PI System」を持ち、プラントのライフサイクルソリューションを扱うベンダーとしては、抜群の実績を持っている。

 AVEVA PI Systemの位置づけとベネフィット

ユーザーは、エンジニアリング、石油・ガス、石油化学、食品、飲料、製薬、インフラ、造船、鉄鋼、エネルギー、電力、製造、上下水道と幅広い。

積極的な事業統合により、AVEVAは、ポートフォリオをプラントのライフサイクルにソリューションを拡大し、かつての主力事業であった3次元CADなどのエンジニアリングソリューションは、ポートフォリオのごく一部になった。



2016年に設立されたCogniteとdDrivenにも注目

AVEVAのこうしたM&Aによる業容拡大とともに、プラントのライフサイクルソリューションを手掛けるベンダーが相次いで立ち上がった。本特集で取り上げた、ノルウェーのCognite、シンガポールのdDrivenは、いずれも2016年に設立された。

Cogniteは、ノルウェーのアーカーグループ企業として設立された。

アーカーグループは、石油・ガス、再生可能エネルギーなどを手掛けるコングロマリットだが、Cogniteにはソフトのエンジニアと、石油・ガスなどの実業で豊富な経験を持つドメインエキスパートが在籍している。このため、現場で求めるソリューションを開発している。

Cogniteが提供する、「Cognite DataFusion(CDF)」は、プラントのライフサイクルをカバーする、クラウド対応のソリューションだが、ニーズに応じて、誰にでもカスタマイズできる点が特徴だ。

この特徴を活かせば、多様なデータ入力にも対応できる。実際、CDFは、4足歩行のロボットが目視した、プラントのフィールド計器のメーターの数字をデータとして取り込むことができる。

またドローンに搭載されたカメラが撮影したデジタル画像データを取り込み、プラントにおける錆に関するデータを取得することも行われている。デジタルデータであれば、取得が可能だ。容易にカスタマイズできるため、ユーザー本位で様々なソリューションが生み出されている点が注目される。

また、シンガポールのdDrivenは、シーメンスに在籍していたエンジニアが独立して設立した。

dDrivenの基幹ソフト「UNLSH」は、ベンダーロックインの回避、導入のリスクとコストの低減、データの価値化に要する時間の削減、そして産業IT/OTデータに関する過去からの技術的負債の解消を目的として構築された、データプラットフォームだ。

マイクロソフトのAzure、アマゾンのAWSなどのクラウドサービスのほか、SaaSアプリケーションなどのAIプラットフォームに対しても、それらの先進エッジとして展開できる。

接続先のシステムやベンダーに依存しないシステムで、ノーコード開発できる。また、バックエンドのITおよびOTのデータソース、フロントエンドの可視化ツールやML(マシン・ラーニング)プラットフォーム、そしてクラウド、オンプレミス、ハイブリッドのホスティング場所にも依存しないデータプラットフォームだ。

2016年に設立され、まだ経験が少ないベンダーもプラントのライフサイクル管理システムの分野で、確実に存在感を高めている。



㈱重化学工業通信社
 

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