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 2022.7.25
DCSとエンジITの協業で近付く、プラントの自律運転
ハードとソフトの融合で生み出す、次世代のプラント操業

 今年5月、DCSベンダーのエマソンのソフトウェア部門とシミュレーターやエンジニアリングの高い生産性を実現するソフトを持つアスペンテックが統合され、新生アスペンテックを設立された。2010年代の半ばから、DCSベンダーとエンジニアリングITベンダーの協業は相次いでいる。シーメンスとベントレー・システムズは協業により、PlantSightを開発し、プラントの操業効率を向上した。シュナイダーは3次元CAD「PDMS」を持つAVEVAとソフトウェア部門を統合、新生AVEVAはプラントの操業管理では、抜群の実績を持つ「OSI soft」を買収し、OT部門に強みを持つライフサイクルソリューションのサプライヤーになった。DCSベンダーとエンジニアリングITベンダーの協業の行く先には、自律型運転を可能にする次世代のプラントの姿が見えてくる。

DCSベンダーとエンジニアリングITベンダーが相次ぎ協業

制御システムを持つベンダーとエンジニアリングITソリューションの協業として、最初に注目されたのは、2016年に経営統合に踏み切った、独シーメンスと米ベントレー・システムズの協業ではないだろうか。

当時、シーメンスがベントレーの株式の9%を取得し、一時的に「買収の布石では無いか」という憶測も流れた。

両社はプラント分野のソリューションの開発に取り組み、プラント分野のデジタルツインを実現する「PlantSight」を開発、このソリューションは2020年にインドネシアの石油化学メーカー、チャンドラアスリ社に導入されるなど、成果を上げた。

この動きは、エンジニアリングITソリューションを提供するベンダーが、ITからOT(Operational Technology)までを含む、プラントのライフサイクルソリューションへとポートフォリオを拡大する動きと位置付けられる。

制御システムとエンジニアリングITの両分野のベンダーによる協業は、その後も続いた。

2018年に、仏シュナイダー・エレクトリックは、ソフトウェア部門を英国のエンジニアリングITベンダーであるAVEVAとの経営統合を実現した。当時、シュナイダーのソフトウェア部門には、プロセスシミュレーターでは世界的なベンダーであるSimSciやWonderwareがあり、3次元CADを持つAVEVAとの統合により、新生AVEVAは、プラントの設計・建設から、操業・メンテナンスまでのライフサイクルをカバーできるようになった。両社は経営統合されると、「Unified Engineering」を前面に打ち出した事業を展開した。

そしてAVEVAは2020年8月、プラントの操業の履歴管理ができる「PI System」を持つ、ベンダーである「OSIsoft」を買収した。

「PI System」は、プラントフィールド機器、DCSなどの操業データをデータのフォーマットに関係なく格納でき、これら履歴データに迅速にアクセスできる。

AVEVAによるOSI softの買収は、エンジニアリングITベンダーのポートフォリオが、プラントの操業へと拡大する動きとして位置付けられる。

そして今年5月、アスペンテックが世界的な制御システムベンダーであるエマソンのソフトウェア部門との経営統合に踏み切った。

制御システムベンダーとエンジニアリングITベンダーの相次いだ経営統合は何を意味するのか、小誌なりに取材を試みた。


今年のハノーバーメッセ出展者が示したソフトウェアへの高い関心

取材の中で浮かび上がったのは、DCSベンダーがソフトウェアを重視する戦略を取っていることが大きい。

例えば、今年5月30日から6月2日まで、ドイツのハノーバーでハノーバーメッセが開催されたが、開催期間中に、産業分析を行うアナリスト9名が出展者などに行ったヒアリングなどによるアンケートでは、最も高い関心事として「ソフトウェア」が上がった。

 図1 2022年のハノーバーメッセのヒアリング結果による、関心のある技術

ベンダーがソフトウェアを重視するのは、すでに、DCSやフィールド機器の既存技術が成熟しており、今後の差別化にとって、ソフトウェアが重要な役割を果たすからだ。

このため、ハノーバーメッセの出展者や来場者においては、ソフトウェアへの関心が高まっているものと見られる。

ソフトウェアへの関心が高いのに対し、デジタルツイン、ヴァーチャルレアリティは下位に甘んじている。たしかに、これら技術は最近、いろいろな場所で関心を持たれているように見られるが、要素技術である。この点、ソフトウェアは汎用的な領域をカバーして、幅広い分野に活用できる。こうした背景があって、ソフトウェアについて高い関心が持たれたと見られる。

この傾向から考えれば、DCSベンダーがエンジニアリングベンダーとの経営統合に踏み切った背景には、将来を見据えた差別化をにらんだ意志決定があったものと見られる。

特に、AVEVAとの経営統合により、シュナイダーが保有するシミュレーターなどの技術とAVEVAが保有する3次元CADなどのエンジニアリングIT技術を融合して「Unified Engineering」を標榜した。そして2020年8月に、オペレーションデータを収集・標準化・保存して、データを分析できる「PI System」を持つ「OSIsoft」を買収した。

すでに、AVEVAは「Unified Engineering」を標榜した時点で、プラントのライフサイクルに関わるデータを扱えるようにデータ解析分野を拡張したが、「OSIsoft」の買収により、数十年の履歴を持つデータにも容易にアクセスできるソフトウェアを持つことで、OT(Operational Technology)に関して、より深みのある関係を構築できるようになった。

こうした中で、今年5月に、DCS、フィールド機器、バルブなど、プラント関連機器を幅広く扱うエマソンのソフトウェア部門と、シミュレーターなどのエンジニアリングITに関するソフトウェアを持つアスペンテックが事業統合された。

この統合話は、アスペンテックから持ち込まれている。その狙いは、180億ドルの年間売上高を持つエマソンと経営統合することで、強い経営基盤を持つパートナーとともに、新たな買収を検討するところにもある。

エマソンにとっても、ソフトウェア企業と経営統合されることで、ポートフォリオを拡大することができる。強い経営基盤を持つエマソンを求めたアスペンテックと、ソフトウェアによるポートフォリオの拡大を狙うエマソンの利害が一致したと言えるだろう。

今後、経営統合された、エマソンのソフトウェア部門とアスペンテックがどのような展開をするかが注目される。

DCSベンダーなどのメーカーでは、ソフトウェアへの関心が高まっているが、ハノーバーメッセで成長しているトレンドとして上がったのは、「Sustainability(持続可能性)」だ。持続可能性は、長期間に渡って、地球環境を壊すことなく、資源も使いすぎず、良好な経済活動を維持し続けることを意味する。

 図2 ハノーバーメッセにおける急成長しているトレンド

ソフトウェアによって、OTにより、プラントの生産性を向上することは、「Sustainability」を実現するうえでも、大きな意味を持つと見られる。



DCSベンダーとITベンダーがプラントの自律運転を可能に?

DCSベンダーとエンジニアリングITベンダーの協業が活発に行われるようになった背景には、DCSベンダー側のソフトウェア抜きでは、技術革新ができないという問題がある。一方エンジニアリングITベンダーとしても、ハードウェアの高付加価値化にソフトウェアを活用できれば、そこに、新たなビジネスの活路が生まれる。

エンジニアリングITベンダーは、創業時はシングルポイントソリューションを提供してきたが、現在では、プラントのライフサイクルをすべてカバーできるソリューションを持っている。

このソリューションで、DCSからもたらされるプラントの稼働に関する情報が加われば、より生産性を向上できる。そればかりか、将来的には、プラントの自律運転までを視野に入れることができる。

DCSベンダーとエンジニアリングITベンダーの協業は、プラントの運転の自動化という未来を見据えたものであることも見逃してはならない。

DCSベンダーとエンジニアリングITベンダーの協業は将来のプラントの運転において、重要な意味を持つはずだ。



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