2022.7.25
アスペンテック、経営基盤の強化を目的にエマソンとの関係を強化
エネルギー需要増とサステナビリティを両立へ |
5月16日、アスペンテックとエマソンのソフトウェア事業が統合された。これにより、アスペンテックはエマソンの持つ発電プラントなどのユーティリティ関連と地質シミュレーションのソリューションを保有するようになった。しかし、アスペンテックの狙いは、年間売上高180億ドルのエマソンとの協力関係を強化することで、経営基盤を強化することだ。今回の協力関係の強化は、新生アスペンテックの「初めの一歩」にすぎない。
アスペンテックとエマソン、関係強化で経営基盤を拡充 |
5月16日、アスペンテックとエマソン・エレクトリックのソフトウェア事業に関する取引が完了した。
この取引に伴い、エマソン傘下で発電プラントなどのユーティリティを制御・最適化するソフトウェアを提供するOSI社と地下工学の運用を最適化するソフトウェアSSEが新生アスペンテックに傘下に入った。
この取引では、エマソンが新生アスペンテックの株式の55%を保有し、これと引き換えにエマソンは新生アスペンテックに60億ドルの現金を支払った。
この取引により、エマソンとアスペンテックは、協業を拡大し、アスペンテックはエマソンとの関係強化に伴い、新市場への参入と既存市場への浸透を図ることができる。
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アスペンテックとエマソンの取引構造 |
この取引の根拠について、アスペンテックは、①現在の産業環境で競争できる大規模プラットフォームの構築、②内部および外部的成長を実現する投資能力の強化、③新しい市場への到達と関連性の拡大、④収益性と持続可能性における顧客価値の創造の強化、を挙げる。
この協力関係の強化について、アスペンテックのアントニオ・ピエトリ 社長兼 CEOは「この数年間の産業界の競争状況を見ると、プラットフォームが重視されるように変わってきた。そこで、大きなバランスシートを持ったパートナーを探していた」と、その理由を説明する。
実際、エマソンは年間売上高180億ドルの巨大企業で、制御システム、バルブなど、産業システムを構成する主要機器・装置などを扱う。そして、この分野では、グローバルに展開している。
この強い経営基盤を持つエマソンをアスペンテックがパートナーとしたことで、ピエトリ社長兼CEOは「当社も積極的に買収を行えるようになった」と言う。
つまり、強いプラットフォームを持つために、資金力もあるパートナーとWin-Winの関係になり、次の一手を模索しようというのが、最大の狙いと言える。
この統合は、アスペンテックから提案したもので、取引銀行と検討したうえで、提案し、エマソンのトップと交渉した結果、合意に達した。
エマソンは、DCS(分散型制御システム)やトランスミッターを製品としてラインナップしているが、現場で稼働しているバルブや制御システムから集められたデータをアスペンテックのヒストリアン(履歴データの格納場所)に格納することもできる。
また将来的に、エマソンのハードにアスペンテックのソリューションをOEMで取り込むこともできる。そうなれば、ユーザーはエマソンのハードウェアを購入することで、アスペンテックのソリューションをOEMで手に入れ、技術を活用することが可能だ。
関係強化でソリューション企業2社がアスペンテック傘下に |
アスペンテックは、既存のアセットを最適化するソリューションをすでに、40年間以上に渡り、40拠点、35カ国で展開、石油・ガス、EPC、医薬品などの分野において、2,400社以上の顧客を獲得している。
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アセットの最適化がスマートエンタープライズを強化 |
アスペンテックがエマソンとの関係強化により、OSI社とSSE社はそれぞれの分野で実績を挙げているソリューションベンダーでもある。
OSI社は、「オープン・システム・インターナショナル」社のことで、米国のユーティリティ上位100社のうち、44社が顧客で、世界中に550社以上の顧客を保有している。
近年、再生可能エネルギーによる電力供給が増加したことで、グリッドの管理が複雑化したが、複雑なエネルギーネットワークをリアルタイムに制御・最適化できる。
グリーンエネルギーとストレージを統合して、CO2排出量を削減すると同時に、サイバーセキュリティを強化し、ネットワーク全体のすべてのソースを保護することができる。
一方SSE社は、統合以前は、ジェオロジカル・シミュレーション・ソフトウェア(地質シミュレーション・ソフトウェア)社として展開してきたが、統合に伴いSSE(Subsurface
Science & Engineering)に社名を変更した。地質学、地球物理学、岩石物理学、工学の技術分野における40年以上に渡るリーダーでもある。
油田の最初の産出までの時間を短縮し、投資収益を最大化できるほか、油田開発と地熱エネルギーのための抗井の計画・設計・掘削にも対応している。同時に、CO2の地下貯蔵を最適化でき、近年、需要が高まるCCUS(CO2回収・利用・貯蔵)にも対応できる。
新生アスペンテックは、OSI社とSSE社を傘下に加えたことで、従業員3,700名の企業として、再出発した
アスペンテックの、エマソンとの統合は、ソリューションの獲得以上に、経営基盤の強化がその目的と見られる。この強い経営基盤を背景に、アスペンテックは、今後、予想される世界的な変化に対応する方針だ。
例えば、世界の人口は2020年時点では78億人だが、2050年には97億人に増加すると見られる。これに伴い、エネルギー需要は50%増加することが予想されている。しかし、エネルギー需要の90%を再生可能エネルギーで賄う必要がある。
そこで産業界に求められるのが、アスペンテックの言う「デユアル・チャレンジ」だ。これは、人口の増加と生活水準の向上に伴う資源需要の増加に対応するとともに、持続可能性の目標にも取り組むことを意味する。
この「デュアル・チャレンジ」に求められるのは、俊敏性・柔軟性などの新たなオペレーショナルエクセレンスである。アスペンテックでは、これらを実現するために、「さらなるデジタル化が必要」と指摘する。
要は、サステナビリティが必要となるが、それを実現するには、資源の効率化、エネルギー転換と脱炭素化、そして、廃棄物削減、リサイクル、再生可能原料、技術革新などによる循環経済を実現する必要がある。
アスペンテックは2020年12月に、「ALLIANCE TO END PLASTIC WASTE」(廃棄プラスチックを無くす国際アライアンス)に参加している。このアライアンスは2019年より、プラスチックバリューチェーンを超えて、業界のリーダーやパートナーの世界的ネットワークを結集し、世界60都市で30以上のプロジェクトのポートフォリオを構築している。
アスペンテックは、1981年にプロセスのモデリング&シミュレーションのソフトウェアの開発・販売を目的に設立された。その後2000年代には、プロセスの最適化、2010年代の半ばからはアセットの最適化を図るソリューションへの提供へと事業を展開してきた。
そして現在は、新生アスペンテックの時代を迎え、サステナビリティを実現しつつ、エマソンとの関係を強化しながら時代に即した事業を展開する。
人口増加に伴うエネルギー需要の増加に対して、世界は再生可能エネルギーの活用を活発化して対応する。そして、エネルギー効率の向上や設備の稼働率の向上で対応する。
エマソンとの提携関係の強化は、経営基盤を強化し、新たな時代に対応するための布石と受け取ることができる。 |
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