2020.9.24
パンデミックリスクを軽減したデジタル化
アヴィバが8月25・26 日にAWDを開催、デジタル化先進企業が強調 |
パンデミックは、装置産業や設備を提供するエンジニアリング・コンサルティング企業にどのような影響を与えたか。今年は新型コロナウイルスの感染拡大により、世界各地で企業の事業活動が停滞した。しかし、事業活動の停滞は経済の減速を意味するが、デジタル化によりその影響を軽減できないか。アヴィバが8月25・26
日に開催した「アヴィバ・ワールド・デジタル(AWD)」では、最終日にADNOC(アブダビ国営石油)などの技術部門のトップが登壇、デジタル化先進化により事業への影響が軽微だった状況を説明した。 |
毎年、世界各地で開催されてきた産業用ソフトウェアのアヴィバの「アヴィバ・ワールド・サミット(AWS)」だが、今年も10月にスペイン・バルセロナでの開催が予定されていた。しかし新型コロナウイルスが世界的に感染拡大したため、「アヴィバ・ワールド・デジタル(AWG)」として、8月25・26日の両日、オンラインでの開催となった。
その26日には、報道陣を対象とした「プレスパネル」が行われた。出席したのは、アヴィバのCEOであるクレイグ・ヘイマン氏、英国のエンジニアリング企業であるウッドグループのCTOであるダレン・マーチン氏、ADNOC(アブダビ国営石油)のCTOであるアラン・ネルソン氏、米国の石油・ガス企業であるDSPミッドストリーム社のCTOであるビル・ジョンソン氏。そして司会を米調査会社のARCグループのバイスプレジデントであるクレイグ・レズニック氏が務めた。
ADNOC/
Alan E. Nelson氏 |
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Wood/
Darren Martin氏 |
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DSP Midstream/
Bill Johnson氏 |
AVEVA/
Craig Hayman氏 |
ARC/
Craig Resnick氏 |
パネルディスカッションのテーマは、「パンデミックへの対応」。今年は新型コロナウイルスの感染拡大により、世界経済が大きな影響を受けたが、世界的にも前例の無いパンデミックの中で、企業は生産性と収益性の向上のために、どのように対応するべきかについて議論された。
冒頭に、ARCグループから、パンデミックに対する産業界の対応に関する調査の報告があり、そこでは「IT(インフォメーション・テクノロジー)とOT(オペレーション・テクノロジー)の双方で、リモートでの対応が活発に行われた」という報告があった。さらに「パンデミック以前から、クラウド環境でIoTプラットフォームを構築することの必要性が認識されてきたが、パンデミックをきっかけにクラウド環境を活用しながら、デジタルツインを実現し、さらにはリモートエンジニアリングへと展開されるようになった」と、パンデミックが従来必要とされてきたIT対応を一気に加速した状況が調査結果にも反映された。
これを受けて、アヴィバのCEOであるクレイグ・ヘイマン氏は「当社は、業務でデータを使用する方法を見付け、その後のパフォーマンスを向上させて、顧客の生産を支援するために、顧客の資産の原材料の流れをサプライチェーンで最適化している。これらを実現するために、顧客とも協業しているが、当社は収益の15%以上を研究開発に投資している」と語り、アヴィバも顧客ニーズを的確に把握し、これを研究開発に反映していることを強調した。
ARCの調査結果に加え、アヴィバの顧客ニーズの把握と、その研究開発への反映を踏まえたうで、各パネラーによる議論が展開された。
ADNOCは「デジタル化とサステナビリティは、創業以来のわれわれの基盤として存在しており、すでに多くの投資を実施してきた。また昨年には、2030年までを対象としたイノベーション戦略とサステナビリティ戦略を策定した。そして、今年1月、これらの戦略を公表した」とパンデミック以前から、持続可能な成長を目指したデジタル投資を行ってきた状況を説明した。
また「CO2排出管理による気候変動の抑制のためにADNOCでは、200件を超える管理ポイントを定め、その管理にデジタル技術を積極的に活用している」と話し、サステナビリティのためのデジタルを活用した事業基盤は整備された。
ADNOCはこうした事業基盤を整備したところでパンデミックを迎えたが「パンデミックによりエネルギー価格が値下がり、われわれの利益率も影響を受けた。しかし、デジタル技術を駆使して、リアルタームでデータを取得。それら取得されたデータを分析することで、最適対応を取ることができた。またパンデミックにより、石油製品のサプライチェーンが影響を受け、スケジュール通りに石油製品が供給できないという事態にもなったが、この状況を迅速に把握して手を打つことで状況を正常化できた」と語った。
ADNOCはかねてから、生産性向上とサステナビリティの維持を実現するためにデジタル化を推進しており、このことがパンデミックの事業への影響を最小限にしたと言える。
英ウッド、パンデミックによる顧客ニーズに変化を的確に把握 |
英ウッドはエンジニアリング・コンサルティング企業として、パンデミックを機会に、顧客の設備投資への考え方がどのように変化したかについて言及した。
「パンデミックにより、上流の石油&ガスの顧客の設備投資が保留され、風力、太陽光、水素などの再生可能エネルギーの資産の最適化のニーズが高まっている」と指摘した。こうした状況を見て、ウッドは、設備とその時々の事業環境がつながり、企業が適切な判断を下すことが重要と考えた。そこで「ウッドは、デジタルについては、先んじて対応しているが、石油&ガスに限らず、風力発電プラントなどの資産の効率を把握するために、コネクテッド・デザイン、コネクテッド・ビルド、コネクテッド・オペレーションに通じて、資産を見る必要がある」と言及した。
つまり、パンデミックをきっかけに、顧客は製造・生産からサステナビリティへと異なる分野に関心を高めるようになった、この変化柔軟に対応するために、設備とそこから発信される情報については、柔軟に対応できる設備の構築の必要性を訴えた。
それでは、顧客にこの環境をどのように与えるべきか。
「設備のライフサイクルに渡り、顧客が適切な判断を下すために必要な対応を行うには、エンジニアリング企業が単独では対応できない。適切なパートナーと協業するとともに、顧客とも協力する必要がある」と言う。
また今後のビジネスチャンスの創出については「都市や重工業の回復には、何が必要になるかを考えることがわれわれにとっての焦点だ。これまでに、多くの技術やシステムを集めてきたが、これらを駆使して、顧客が再び事業を活性化させるために必要なアドバイスを与えることが必要」と言う。さらに「当社は、リアルタイムの環境モニタリングを開発支援しているが、視覚化・分析・機械学習の周辺には、重要なテクノロジーがある。AIを活用してインテリジェントな意思決定を行い、デジタルツインの基盤を固め、コネクテッドワーカーの能力を強化することがカギになる」と指摘した。
パンデミックを機会に顧客の志向はサステナビリティへと移行。それにいかに対応するかをウッドが明確に示したと言える。
パンデミック時のデジタルトランスフォーメーションテクノロジーの採用(ARC調査) |
米DSPミッドストリーム、在宅でも資産の状況を把握 |
DSPミッドストリーム社は米国の9つの州で、石油&ガス事業の生産市場と最終需要地の中間に位置する会社で、ガス処理やユーティリティなどの設備を運用している。
過去3年間、DSPミッドストリームは経営陣がサステナビリティを重視、そのためのデジタル投資を行ってきた。
「当社のサステナビリティプログラムは、デジタル変革プログラムにより支えられている。このプログラムにより、最初に、統合コラボレーションセンターと呼ばれるプラットフォームを作成した。これが意思決定システムになるが、ここに社内あるいは社外の情報源から情報が集められ、当社の資産で起こっていることをリアルタイムに把握し、最適化を促進できる。同時に、現場で働く従業員とリアルタイムでつながるために複数のプラットフォームを作成した。複数の事業所を持つため、本来、人とのコミュニケーションが難しいが、その問題を解決した」と言う。
これらにより、すべての情報を常時入手することが可能になり、変革プログラムとデジタル化が可能になったが、これらはすべて事業のサステナビリティにつながるものでもある。
こうしたプラットフォームを作成していたため、パンデミックの時にも柔軟な対応が可能だった。「パンデミックの時には、多くの従業員が在宅勤務になったが、当社の資産のすべてについて、デジタルを活用して把握できるようにしていたため、資産の状況の把握が可能だった」と言う。特に「ガスプラントでは、リークが生じるかもしれない」「エネルギーを効率的に運用できる場所はどこか」「これらの調整をタイムリーに行うにはどうしたらよいか」などの課題についても、適切な対応が取れたと言う。
今年は新型コロナウイルスの感染拡大という未曽有の危機が全世界を襲った。
しかし、今回のプレスパネルに登壇した企業は、いずれも以前から、デジタル・プラットフォームの作成に取り組み、従業員、パートナーとのコネクテッドな環境を実現することで、パンデミックに直面しても、影響を軽微に食い止めることができた。
ADNOCはパンデミックによる原油価格の値下がりに対応するために、資産の状況を適切に掴み、事業周辺の環境にも配慮しながら資産を適切にコントロールした。
ウッドはエンジニアリング企業の立場から、パンデミックに伴う顧客の変化が再生可能エネルギーへと変化している状況を掴み、新たな提案に結び付けようとしている。
そして、石油・ガス供給の中間業者として事業展開するDSPミッドストリーム社はデジタル・プラットフォームを顧客情報の収集や従業員の在宅勤務に活用した。
登壇した企業はいずれも、デジタル化の導入に以前から取り組み、パンデミックにも柔軟に対応している。
社会のサステナビリティに最大限に配慮しながら、デジタル化を推進する。そのことがパンデミックの影響を軽減したのも事実だ。
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