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 2020.2.21
主要ベンダーが揃ってライフサイクルソリューションに注力
経営統合・協業で、各社ソリューションが密接に連携

 近年、エンジニアリングITソリューションが、プラントのライフサイクルをカバーするようになってきた。アヴィバはシュナイダー・エレクトリックと経営統合して、エンジニアリングITソリューションとシミュレータが機能面でも統合された。ヘキサゴンPPMとアスペンテックも協業により、この動きを追った。ベントレー・システムズはかねてから資本・業務提携を結ぶシーメンスとの共同開発により「PlantSight」をリリース。そして、構造設計のデファクトスタンダードである「TeklaStructures」も建設のライフサイクルに対応することでユーザの生産性を向上している。ライフサイクルへの対応が新たな価値を生み出している。

経営統合で「ユニファイド・エンジニアリング」をアピールするアヴィバ

 「デジタル・ツイン」が意識される中で、エンジニアリングIT業界では、この数年、注目すべき動きがあった。

 2018年3月、有力エンジニアリングITベンダーであるアヴィバとシュナイダー・エレクトリックの経営統合が完了した。

 この経営統合により、アヴィバの持つエンジニアリングITソリューションとシュナイダーの持つプロセスシミュレータの機能が統合され、新生アヴィバは「ユニファイド・エンジニアリング」を標榜した。

 「ユニファイド」とは、「unified=統合」であるが、アヴィバの持つエンジニアリングITソリューションとシュナイダーのプロセスシミュレータはシームレスにつながった。

 以前は、3次元CADで設計中にプロセスシミュレータを使用する時には、わざわざシミュレータを起動させなければならなかったが、統合されたことで設計画面から直接、シミュレータの機能を活用できるようになった。

 この統合により、アヴィバは「ユニファイド・エンジニアリング」のみならず、「ユニファイド・プロジェクト・エグゼキューション(UPE)」「ユニファイド・オペレーション・センター(UOC)」「ヴァリューチェーン・オプティマイゼーション(VCO)」「アセット・パフォーマンス・マネジメント」にも対応するようになり、プラントの基本設計から稼働後のオペレーション&メンテナンス(O&M)まで、まさしくライフサイクルに対応できるようになった。

 例えば「ユニファイド・エンジニアリング」では、設計・調達・建設・コミッショニング(試運転)といった一連の流れを設計(基本設計)・シミュレーション・コミッショニングと並行して流すことができる。しかも「ユニファイド・エンジニアリング」では、設計とシミュレーションはシームレスに連携し、エンジニアリングの生産性を向上できる。

 基本設計中に、シュナイダーが長年に渡り、完成度を高めてきた「PRO/Ⅱ」「SimCentral」といったシミュレータを並行しながら活用できる。

 また「ユニファイド・エンジニアリング」環境では、基本設計と詳細設計をシームレスに連携させることも可能だ。

 ワークフローをイメージすると、「ユニファイド・エンジニアリング」のメリットについて、理解が深まる。
 ①プロセスシミュレーションツールにより設計を開始、②シミュレーションデータをコスト推算ツールに送信可能、③異なる設計ケースの各種シミュレーションデータを「AVEVAエンジニアリング」上で統合、④他のシミュレーションパッケージからデータを取り込み、データ交換も可能、⑤カバニングケースを「AVEVAエンジニアリング」上で作成、⑥カバニングケースを「SimCentral」で検証、⑦他の設計部署とのデータ統合、⑧より詳細なコスト見積推算、⑨プロジェクトで必要な資料の作成。

 アヴィバが提案するユニファイドエンジニアリング

 「AVEVAエンジニアリング」は、EPCコントラクターやオーナーオペレータに対して、タグのライフサイクル管理をサポートして、データソース間のタグの重複や不整合を回避しながら、すべての部門が命名規則に従えるようにするソリューションだが、「ユニファイド・エンジニアリング」の展開をより強化できる。

 一連のワークフローにおける設計データ変更については、都度、変更管理がなされ、最終的なエンジニアリングデータに反映される。「ユニファイド・エンジニアリング」のメリットとして、①PFD(プロセス・フロー・ダイアグラム)、データシート、3Dなどのエンジニアリング図書作成における同一データベースの参照、②資材発注前のダイナミックシミュレーションによる設計データの迅速な検証、などが挙げられる。

 さらに各部署で使用可能な共通プラットフォームが提供され、FEED業務の高速化に伴い、エンジニアリングが効率化され、結果的にトータルコストの削減につながる。

 そして、アヴィバの最大の強みは、共通データベース「Dabacon」を保有していることだ。

 他のエンジニアリングITベンダーは、市販のデータベースを活用しているが、アヴィバの「Dabacon」は自社開発だ。市販のデータベースを活用すれば、そこでコストも発生するし、インタフェースの開発が必要になるが、アヴィバにはその必要がない。

 データベース「Dabacon」の強みも、アヴィバの優位性と言えるだろう。


ヘキサゴンPPMとアスペンテックが協業でMOU

 アヴィバとシュナイダーの経営統合は、エンジニアリングITソリューションとプロセスシミュレータの統合を実現し、プラントの「デジタルツイン」環境の生成への効果が期待された。

 この動きに呼応するように2019年6月、エンジニアリングITソリューションのヘキサゴンPPMとプロセスシミュレータのアスペンテックが協業することで、覚書(MOU)締結したと発表された。

 経営統合により、新生アヴィバが誕生し、ヘキサゴンPPMとアスペンテックがその動きを追随したと言えるが、ヘキサゴンPPMもプラントのライフサイクルを視野に入れた展開を強化しており、昨年1月にはプラントの運転管理ソリューションの「J5インターナショナル」を買収している。アヴィバとシュナイダーの経営統合がきっかけとなった協業と見られるが、ヘキサゴンPPMとアスペンテック両社のプラントライフサイクル志向が協業に導いたと言えるだろう。

 ただ経営統合と協業に関する覚書締結では、結びつきの強弱はあるものの、新たな連合が生み出すソリューションにも期待が高まっている。

 ヘキサゴンPPMとアスペンテックの協業により、文字通り、プラントのライフサイクルがカバーされた。

 概念設計はアスペンテックのソリューションで対応し、基本設計では、両社のソリューションを連携する。詳細設計はヘキサゴンPPMが主に対応し、アスペンテックのプロセスシミュレータと連携。そして、操業と保守は、両社のソリューションがそれぞれサポートする。

 プラントのライフサイクルを通じて、投資額を削減して、EPCの生産性を向上させることもできる。

 例えば、現在のワークフローでは、データがばらばらに存在し、連携していないため、手作業や手直しにも時間がかかる。

 しかしFEEDとプロセスエンジニアリングがシームレスに連携すれば、設計変更があれば、一カ所を訂正すれば、連携する複数個所が紐づけされており、修正できる。

 アスペンテックでは、シームレスな連携が実現されることで、「最大25%のCAPEX(投資コスト)の削減につながり、最大50%の生産性向上が可能になる」と言う。

 また最近は、米国のエンジニアリング企業、マクダーモット社が連邦破産法(チャプター11)を申請し、フルアが赤字決算となるなど、有力エンジニアリング企業が業績を悪化させている。アスペンテックでは、これらの要因の一つとして「サイロ化したエンジニアリング業務が原因」と指摘する。

 サイロ化とは、各部署が連携を取らずに、独自に業務を進めている状況を指すが、この結果、80%のプロジェクトが予算超過に陥っているという。

 このワークフローを、シームレスに連携させることで、EPCの経済性が高まり、プロジェクトの成功確率が向上すると言う。

 ヘキサゴンPPMとアスペンテックは協業により、EPCのワークフローをシームレスに連携させることを可能にしたが、これだけのデータを支えるデータベースの問題がある。

 現在、双方ともに市販のデータベースを活用しているが、まずコストがかかる。またシームレスな連携がどこまで可能になるかも不透明だ。

 機能だけを統合して、シームレスに連携させたところで、それをスムーズに活用させるのは、データベースによるところが大きい。

 この点について、アスペンテックのEPC部門のインダストリー・マーケティング・ダイレクターであるポール・ドネリー氏は「オラクルのみならず、様々なデータベースを活用できる」とは言うものの、データベースについては明確なコメントはない。

 そして協業関係で、どこまでの連携が可能にあるかについても疑問が残る。

 経営統合により身内になったのと、協力関係の締結だけでは、その結びつきに差があるのではないか。

 ヘキサゴンPPMとアスペンテックの協業により、理屈上は機能融合が可能になるのは分かる。しかし協業レベルでは、あくまでもパートナーであって、身内ではない。この違いが今後の事業展開にどのように反映されるか、見届ける必要がある。

 アスペンテックとヘキサゴンの協業でライフサイクルがカバーされる


ベントレーとシーメンスが共同開発した「PlantSight」

 プラントのライフサイクルにフォーカスしたソリューションが各ベンダーから発売されるが、プラントの稼働後にフォーカスしたソリューションに取り組んでいるのが、ベントレー・システムズだ。

 2016年11月、シーメンスはベントレーの株式9%を保有し、両社は資本・業務協定を締結した。

 2018年11月には、両社の共同開発による「PlantSight」が発表された。

 「PlantSight」は、物理的なリアルデータとエンジニアリングデータを同期して、最新の運用状態を再現した「デジタル・ツイン」を実現する。

 ブラウンフィールド案件に威力を発揮する「PlntSight」

 ベントレーには、リアリティモデリングソフトである「ContextCapture」があるが、このソフトを使用すればデジタルカメラによる画像や3Dレーザースキャニングにより得られた点群データから3次元モデルを作成できる。装置や機器の画像をデジタル情報として取り込むことができれば、マシンラーニングが可能になる。

 様々な方法で取得したデータは、「PlantSight」により、関連付けることができる。「ContextCapture」により取り込まれたデータは、3次元モデルとなり、画像データが「デジタル・ツイン」環境を作り出すのである。

 このソリューションをAPM(アセット・パフォーマンス・マネジメント)に役立てることもできる。

 ベントレーは近年、オイル&ガスおよび発電のプラント分野では、その新設であるグリーンフィールドではなく、ブラウンフィールド案件に力を入れている。

 理由は、再生可能エネルギーへの転換があり、オイル&ガスおよび発電プラント分野では、大規模なプラントの新設が難しくなったためだ。

 このため、既設プラントの効率的な運用が、求められるようになった。しかも最近は、CO2排出問題もあり、プラントの高効率の稼働が求められる。
 こうしたニーズに応えるため、ベントレーは目下、既存プラントの効率的な稼働を実現するソリューションの開発に力を入れている。

 実際、ベントレーのソリューションの中でも最近は、プラントの維持・管理にフォーカスした「AssetWise」の売上が世界的に好調だ。

 これまでにも、インド、東南アジア地域で売上高を伸ばしてきたが、最近では中東での売上が伸長している。これら地域では、オイル&ガス関連のプラントが稼働してから30~40年が経過している。これら設備を効率よく稼働させるために「AssetWise」の売上が好調に推移していると見られる。

 「AssetWise」が取り込むデータは、プラントのDCSのほか、SAPなどのERPシステムでも良い。ベントレーの持つデータ交換のためのコンテナである「i-Model」により取り込むことができれば、ソリューションにとって、必要なデータとして取り込むことができる。

 また資本・業務提携したシーメンスの持つ、IoTオペレーティングシステム「MindSphere」との連携も可能だ。

 ベントレーでは、こうした「AssetWise」の機能を利用して、「AssetWise DigitalTwin Service」も始めている。 このサービスでは、3Dに時間軸を加えた4Dでの対応も可能だ。デジタルコンテキスト、デジタルコンポーネント、デジタル年表を統合して、オーナーオペレータの意思決定を支援する。

 さらにベントレーは、「Open Utilities Digital Twin services」にも取り組む。このサービスでは、発電所、変電所、ネットワーク全体などの資産を効率的に管理するのに必要な、リアリティモデリング、パフォーマンスシミュレーションなどのサービスを提供する。




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