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 2019.2.22
ライフサイクルにフォーカスするエンジニアリングITベンダー
設計データの活用で操業効率を向上

 エンジニアリングITベンダーによる、施設のライフサイクル管理が活発に展開されている。かねてから、施設のオーナ・オペレータは、施設の設計データのハンドオーバーを求めてきたが、その最大の目的が設計・建設情報を操業&保全に生かすことだ。このニーズに応えるために、エンジニアリングITベンダーは施設の操業&保守への対応に取り組んできた。そしてクラウドが普及するのに伴い、設計データは操業・保守により使われるようになった。エンジニアリングITベンダーは施設のライフサイクルにくまなく対応できるようになった。

ライフサイクルでも威力を発揮するデータベース「Dabacon」

 エンジニアリングITのアヴィバが、シュナイダー・エレクトリック・ソフトウェアを吸収し、新生アヴィバが生まれた。

 アヴィバはプラントの設計およびプロジェクトマネジメントをカバーするソリューションを持ち、シュナイダーは、プロセスシミュレータを中心に、プラントのO&Mをカバーするソリューションを保有している。これら両社が統合されたことで、新生アヴィバが、プラントのライフサイクルを対象とした、新たなビジネスの構築が可能になった。

 新たなポートフォリオを得たことで、アヴィバは「デジタルアセット」を前面に打ち出し、顧客のデジタル資産を有効に活用するソリューションの提供に注力している。具体的には、顧客の経営情報をディスプレイに表示するのだが、ここで重視されているのがデジタルツインだ。

 デジタルツインは、リアルの世界に存在する装置・機器類を、エンジニアリングITの世界に存在させることだ。プラント現場に行って、現物に接しなくても、ディスプレイ上でその装置・機器類の状況が分かるのである。

 このデジタルツインには目下、様々なエンジニアリングITベンダーが取り組んでいるが、アヴィバには、データマネジメントにおいて、他のベンダーにない優位性がある。その優位性とは、自社開発のデータベース「Dabacon」である。多くのエンジニアリングITベンダーが自社開発のデータベースを持たないため、その使用に制限を受けるのに対し、アヴィバは自由にデータベースを活用できる。しかも「Dabacon」は、アヴィバのエンジニアリングITソリューションにおいて、データセントリックを実現してきた高性能のデータベースだ。

 この「Dabacon」をエンジニアリングやプロジェクトマネジメントのみならず、プラントのライフサイクルに活用すれば、顧客にアピールするソリューションを提供できる。アヴィバの先達たちが開発したデータベース「Dabacon」をライフサイクルに拡張して、新たなソリューションに活用する。

 こうした中で、アヴィバが目下、注力しているのが、新たなソリューションである「AVEVA ISM」の提供だ。「ISM」は、「インフォメーション・スタンダード・マネジャー」のことで、「インダストリー・スタンダード」「コーポレート・スタンダード」「リージョナル・スタンダード」「アセット/プロジェクト・スペシフィックス」というレイヤーを持ち、これらレイヤーを「AVEVA NET」が支える構図を持つ。

 これらにより、「エンタープライズ・スタンダード(企業標準)」「CHIHOSスタンダード」「Early Setupof Project Standards(早期プロジェクト設定標準)」が実現される。

 アヴィバのプロジェクト・スタンダード・マネジメント

 ここで「CHIHOSスタンダード」という耳慣れない用語が登場するが、「CHIHOS」では、「CapitalFacilities Information Hand Over」のことで、石油メジャーのシェルが中心となって、わが国のエンジニアリング協会(ENAA)や米国のエンジニアリングITの団体であるFIATECHなどとも共同で策定したエンジニアリング情報のデータハンドオーバーの国際基準だ。

 プラントを建設するためのエンジニアリングデータによりプラントを建設し、そのデータを顧客にハンドオーバーして、それを企業の事業活動に活用するのである。

 アヴィバが一連のデータのやり取りで重視するのがデータの粒度だ。粒度とは、データの細かさの追求だが、細かな情報を整理した形で提供する。そのために必要なのがヴェリフィケーション(Verification)が必要になるが、データを集約して、確認・承認した形でハンドオーバーする。

 新生アヴィバは、シュナイダー・エレクトリック・ソフトウェアと経営統合されたことで、プラントのライフサイクルを扱えるようになったが、それに伴い、膨大な量の情報を扱うことになった。ここで大きな役割を果たすのが、アヴィバが持つオリジナルのデータベース「Dabacon」だ。

 アヴィバでは、「Dabocon」により、超規模から大規模までのでデータに対応できると言う。これらにより、デジタル・トランスフォーメーションに対応する。


「Tekla Structures」の設計データをライフサイクル管理に活用

 トリンブル・ソリューションズの構造設計ソフト「Tekla Structures」も最近は、施設のライフサイクル管理に使用される事例が増えている。

 UAEのドバイに本社を置く、海洋構造物のエンジニアリングを行うLamprell社は2007 年に「TeklaStructures」の使用を決めた。その理由は「他の3次元モデリングソリューションと比較して、より大規模かつ複雑なプロジェクトを扱うことができ、4D可視化を含む初期のコンセプト研究から構造・安全システムの設計・持続可能性の検討、さらには試運転や回収、最終的な廃止まで、ライフサイクルに渡って使用できる」というもの。

 
  Tekla Structuresで設計した Lamprell社の
海洋構造物
 Lamprell社では、「Tekla Structures」の構造部材をアヴィバ社のPDMSにエキスポートして、SDNF形式の3次元構造モデルに返還する作業を行っており、「Tekla Structures」を鉄骨部材すべてのライフサイクルに活用する方針だ。

 ノルウェーのオスロ空港第2ターミナルの主要構造エンジニアリングを手掛けたノルウェーのAas Jakobsen社は、施設の改修をへの対応を考慮して、「Tekla Structures」を採用した。

 オスロ空港第2ターミナルプロジェクトは、100社以上の関係会社が関わる巨大なプロジェクト。ノルウェーのオスロにある機能的な国際空港でもある。このプロジェクトでは、建設会社は日常的に、安全性や空港のセキュリティを確保し、通常の運行をスムーズかつ確実に遂行する必要があった。

 そこで主要構造のエンジニアリングを手掛けるAas-Jakobsen社はこの問題に取り組んだ。

 また、このプロジェクトでは、空港の管理会社であるAvinor社などともスムーズな協業を行うことが条件とされており、関係会社によるモデリングが必要とされた。しかも、オスロ空港には、意匠設計・空調設備・電気系統から、空港ならではの手荷物処理システム、数百メートル続くエアサイドエリアまで、100以上の参照モデルがあった。そこで、Aas-Jakobsen社は、幾何学モデルや参照モデルの他、設計の出発点として既存構造物の情報を利用した。

 一方空港管理会社であるAvinor社はこのプロジェクトに「Tekla Structures」を使用することを決めた。理由は「継続的に空港の改築を行うため」。改修プロジェクトを行う時、既存構造物に関する正確な情報があれば、回収をより簡単かつ安価に実施できる。解析以外のすべてにおいて、「Tekla Structures」を利用している。

 このプロジェクトでBIMコーディネータを務めた、Bjernar Markusen氏は「豊富なモデル情報を活用することは、オスロ空港第2ターミナルの将来を大きく左右する。ここからメリットを得るのは、建設会社だけではなく、建物情報は、Aas-Jakobsen社が新しいプロジェクトに移行して、長期間が経った将来にAvinor社の資産になる」と言う、2017年に、デンマークでは、ごみ焼却プラントの建替えプロジェクト「アマー・パッケ」が実施された。

 このプロジェクトに当たった、デンマークのエンジニアリング企業、MoeA/S社は、構造物の計画とアマー・パッケ・プロジェクトの指揮を担当した。

 「Tekla Structures」を活用したアマー・パッケごみ焼却プラント

 「Tekla Structures」を利用して、リベットからボルトまで、建物の細部までを詳細にモデリングし、数量手明細書や入札リスト、注文カタログの生成や建設管理にも活用した。

 「Tekla Structures」は3~6人の製図工やモデリング作業者のチームが日々利用し、構造エンジニアはモデル内の入り組んだ詳細箇所の確認や寸法計測を行ったり、他のプロジェクト関係者とモデルを共有して作業に当たった。プロジェクトの進行とともに、情報モデルは各関係者向けに定期的に更新された。これにより、クライアントは全関係者から集められたプロジェクトの最新情報や建設の進捗情報にコンスタントにアクセスできた。

 「Tekla Structures」では、設計図や寸法がモデルから直接出力でき、情報は常に正確なので、暗いアンドにとってもデータを有効に活用することができる。さらに将来的に、関係会社がモデルから様々な情報を取り出すことが可能だ。


ヘキサゴンPPM、プラントライフサイクルにきめ細かいソリューション提供

 ヘキサゴンPPMは今年1月、オペレーション管理ソフトを持つ「j5インターナショナル」を買収すると発表した。

 プラントのライフサイクルに対応するソリューション提供を目指す、ヘキサゴンPPMだが、プラントのオペレーションに対応できるソリューションを所有していなかった。そこで「j5インターナショナル」の買収に踏み切ったが、これにより、ヘキサゴンPPMのライフサイクルをカバーするソリューションがいっそう拡充された。 ヘキサゴンPPMの製品ラインナップは、プラントの初期設計から詳細設計、調達・建設・製作、メカニカル・コンプリーション、データハンドオーバー、運転&保守に加え、デコミッショニングと文字通り、ライフサイクルの細部に渡っている。

 ヘキサゴンPPMのライフサイクルソリューション

 初期設計には、「SmartPlant P&ID」「SmartPlant Instrumentation」「SmartPlantElectrical」の他、シミュレータのケース管理などを行う「Intergraph ProcessEngineering」や設計基準に沿ったP&ID・計装・電気データの整合性を精査する「SmartPlant Engineering Integrity」がラインナップされている。

 詳細設計には、3次元CADとして、「Intergraph Smart3D」「EYECAD」のほか、AutoCADとの互換に優れた「CADWorx Plant Professional」がラインナップされている。また配管応力解析ソフト「CAESERⅡ」、圧力容器・熱交換機の設計の「PV Elite」、石油貯蔵タンクの設計と解析・評価を行う「TANK」、構造解析の「GT STRUDL」が用意されている。さらに、3Dモデルやデータをインターグラフ製品で操作できる形式に変換する「SmartPlant InteropPublisher」やエンジニアリングにおける各ソリューションの統合環境を提供する「SmartPlant Enterprise」もラインナップされている。

 調達・建設・操作においても、様々なソリューションが用意されている。

 効果的な資材・サブコン管理を実現する「Intergraph Smart Materials」、資材ライブラリ作成・様々な製品へのデータエクスポートが可能な「IntergraphSmart Reference Data」、建設リソース・資材・スケジュールを管理する「Intergraph Smart Construction」、建設工事の計画やAs-Builtにスイッチ間隔で素早く簡単にアイソメ図を作成、資材集計が可能な「SmartPlant Isometrics」や製作用のスプール図を素早く簡単に作成する「SmartPlant Spoolgen」たデジタル設計から部品装置までの工場の生産プロセス全体の最適化・管理がきる「SmartProduction」がラインナップされている。

 近年、オーナー・オペレータは、プラントの設計・建設情報を稼働後のO&Mに活かす傾向が高まっている。これに伴い、データハンドオーバーが重要視されている。そこでデータハンドオーバーには、CAPEXプロジェクトから運転へのハンドオーバーで、データ検証、変換、移行を網羅する包括的プラットフォームである「Intergraph Smart Data Validator」、データや図書のハンドオーバー業務を簡素化する「SmartPlant EnterpriseData Take on and Handover」が用意されている。

 運転&保守には、プラントライフサイクルのオーナープロセスすべてに対処する統合・事前設定型ソリューション「SmartPlant Enterprise for OwnerOperators」、未整理の大量データと図書を進化し、シンプルなウェブポータルを介して素早く検索・取込み、整理、関連付け、閲覧が可能な「SmartPlant Fusion」、そして改修工事のAs-Buildや定修計画にスケッチ感覚で素早く簡単にアイソメ図を作成、資材集計が可能な「SmartPlantIsometrics」がある。

 そしてデコミッショニングに対応するソリューションとしては、すべての関係者のニーズに基づき、建設リソース・資材・スケジュールを管理する「Intergraph Smart Construction」と、未整理の大量データと図書を構造化し、シンプルなウェブポータルを介して、すばやく検索・取込み、整理、関連付け、閲覧ができる「SmartPlantFusion」が用意されている。


ベントレー、「AssetWise」で資産運用を効率化

 ベントレー・システムズも、プラントなどの施設のライフサイクルへのソリューション提供に力を入れている。これまでに、買収などにより、複数のソリューションを獲得してきたが、現在は、統合したソリューションを「AssetWise」として、提供している。ベントレーでは、プロジェクトを包括的に扱う「ProjectWise」も提供しているが、「ProjectWise」がプラントや施設の建設を効率よく実施する役割を担うのに対し、「AssetWise」は、建設のために作成されたCADなどのデータを活用して、効率よく、操業と保全を行うソリューションだ。しかも現在では、ベントレーがクラウド環境でソリューションを提供する「CONNECTEdition」も市場に投入され、ユーザからも高い評価を得ている。

 実際、米国の電力会社であるAES(アプライド・エナジー・サービス)は「これまで、長年に渡り、様々な設備管理ソフトウェアを使用してきたが、AssetWiseは最も柔軟で変更管理が容易なソフトだ」とコメントするほど、使い勝手が良い。

 ベントレーシステムズのクラウドサービス

 「AssetWise」では、ライフサイクルに活用する設計データを受け入れ、そのデータの互換性が確認され、同時にデータの安全性や効率も評価される。そして、データは適材適所に割り振られる。データはクラウドの上に置かれるため、タブレットやスマートフォンなどの携帯端末で閲覧可能だ。携帯端末に表示できるため、データを設備保全の現場に持ち込むこともでき、適切な判断に役立てることが可能だ。

 またシステムを柔軟に使いこなすことで、RBM(リスク・ベースド・メンテナンス)のアプローチも可能だ。このアプローチにより、施設の安全性と信頼性、法律の遵守が可能になる。また資産の可用性や操業コストの削減も可能で、設備の延命化を図ることができる。ソフトウェアを的確に活用することで、最適な操業を実現可能だ。

 これまでに、道路・橋・鉄道などのインフラ施設の設備管理に使用された実績があるほか、発電プラントや上下水道設備の設備管理にも活用された実績がある。そして多くの導入効果が確認されている。

 例えば、米国の大手電力会社であるエクセロンに導入された事例では、コスト削減が実現された。エクセロンでは、資産であるプラントの可視化が難しく、操業において、適切な意思決定が下せないなどの問題があった。そこで「AssetWise」を導入して、リスク評価、資産の健全性のモニタリングを行った。これにより、設備保全が計画的に行われるようになり、メンテナンスワークにおける重要ポイントの抽出が適切に行えるようになった。その結果、オペレーションコストの削減につながった。

 また石油・ガス会社の米アナダルコは、4万8,000のガス井戸の管理を可視化することで、井戸に必要な添加剤の使用量を大幅に削減することを目的に「AssetWise」を導入した。「AssetWise」の導入により、リアルタイムで添加剤の使用量を把握することが可能になった。これにより、添加剤の使用量が適切に行われるようになり、操業コストの削減に成功した。また点在しているサイトの稼働状況を一カ所で把握できるようにしたため、資産のコントロールが適切に行われるようになった。

 プラントや施設の建設データを適切に活用できる「AssetWise」は設備の運用の効率化を実現できる。



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