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 2018.11.6
ベントレー・システムズ、YII 2018 をロンドンで開催
シーメンスとの資本・業務提携、デジタルツインにフォーカス

 エンジニアリングITベンダーのベントレー・システムズは10月15~18日までの4日間、ロンドンのヒルトン・ロンドン・メトロポールで「The Year in Infrastructure 2018 Conference」を開催した。2016年から提携関係にある独シーメンスとは今年8月、資本・業務提携契約を締結。シーメンスがベントレーの株式9%を持ち、この提携が今後どのように発展するかが注目される。一方テクノロジーではバーチャル環境と現実空間の双方を扱うデジタルツインがクローズアップされた。YII2018は多くの話題を提供しながら盛大に開催された。

 昨年、シンガポールのマリーナ・ベイサンズに場所を変えて開催された、ベントレー・システムズの「TheYear in Infrastructure Conference」だが、今年の「The Year in Infrastructure 2018 Conference(YII2018)」は、場所を一昨年までのロンドンのヒルトン・ロンドン・メトロポールでの開催となった。

 
グレッグ・ベントレーCEOの基調講演
 これまで「Going digital(デジタル化の推進)」を強調してきたベントレーだが、今回のYII2018では、つなげた環境を通じて提供される「デジタルツイン」がことさら強調された印象がある。

 しかも8月下旬には、2016年から業務提携関係にあったシーメンスとの関係との関係をいっそう強化。シーメンスがベントレーに資本参加し9%の株式を取得するとともに、両社で5,000万ユーロずつ拠出して1億ユーロのファンドを立ち上げることまで発表し、その協業関係は従来以上に強化されることになった。

 これまで買収により、新たなソリューションを加え、ポートフォリオを拡大してきたベントレーだが、シーメンスのような世界的な大企業との協業は初めて。また株式上場はせず、プライベートカンパニーとして事業展開してきたベントレーにとって、外部の資本を受け入れることは初めて。その公式の発表があった直後のイベントでもあり、今回のYII2018は、様々な興味を持って見守られた。

 このところ、エンジニアリングITベンダーは、インターグラフがスウェーデンのヘキサゴン、アヴィバが仏シュナイダーエレクトリックにそれぞれ買収されてきた。この流れの中で、シーメンスの資本参加である。

 この資本・業務提携を担当する、ベントレーのバイスプレジデントであるカルステン・ゲルク氏もシーメンスのエカード・エベリー氏も「現時点では、協業関係」と口を揃える。

 今後については不透明だが、現在のところは協業関係にすぎない。

 それでも、YII2018の期間中に、ベントレーとシーメンスとの共同によるプレスリリースが2件あったことは、見逃せない。


ベントレーとシーメンス2件の発表に注目

 2件の発表は、発電プラントのAPM(アセット・パフォーマンス・マネジメント)とプラントのデジタルツインに関するものだ。
 発電プラントのAPMは、両社の製品とサービスを組み合わせたもので、これにより、発電所のデジタル化を加速し、様々な革新的なソリューションによるインテリジェント解析やマネジメントソリューションを提供する。この新サービスは、シーメンスのクラウドベースのオープンIoTオペレーティングシステム「MindSphere」を活用して、ベントレーの先進の資産パフォーマンスソフトウェア機能と、それを補完するシーメンスの技術およびサービスの専門知識を組み合わせ、発電所のオーナーがデジタル化を最大限に活用して、より効果的に保守を実施・計画できるように支援するものだ。

 シーメンスのAPMソリューションは、ガスタービン、蒸気タービンのほか、関連する発電機、ポンプ、モータ、変圧器、バルブ、スイッチギアなど、発電所の信頼性とパフォーマンスに影響するその他の装置を含め、発電所全体を管理できる。このAPMソリューションは、予測解析に基づく、インテリジェントモデルを使用して、複数のソースからデータを取得するもの。このデータを基に処理し、顧客が使用しているCMMS(コンピュータによるメンテナンス管理システム)EAM(企業資産管理)環境に統合することで、保守計画の改善、停電の防止、要員の効率向上を図ることができる。

 このAPMサービスソリューションには、発電所の構成、装置についての専門知識、プラントオペレーション/保守戦略など、様々な要素を基に、各組織のニーズに合わせて調整される。オンプレミスでのインストール、クラウドベースの「MindSphere」ホスティングから、APMのターンキーソリューション、サービスとしてのAPMまで、複数のオプションが用意されている。

 このソリューションについて、ベントレーのグレッグ・ベントレーCEOは「これは、ベントレーとシーメンスの協業だからこそ、実現できたソリューションだ。ベントレーとシーメンスは協力して、APMを資産管理モデリングへと発展させて、エンジニアリング技術(ET)によって、ITと運用技術(OT)の価値を高められるように取り組んでいく」とコメントした。

 YII2018では、デジタルツインが強調されたが、シーメンスとベントレーが協業により開発した「PlantSight」は、リアルプラントの状況をバーチャルプラントに反映するもので、より効率的なプラントの操業をユーザに提供して利益を提供するデジタルソリューションだ。

 「Plant Sight」は、物理的なエンジニアリングデータと設計のためのエンジニアリングデータを同期して、最新の運用時状態を再現したデジタルツインを実現する。稼働中のプラントであっても、異種データソースをまたいで、包括的なデジタルコンテキストを作成し、矛盾のないデジタルコンポーネントを作成できる。これにより、プラントオペレータは信頼性と品質の高い情報を利用して、運用上の即応性を確保し、信頼性を向上できる。

 稼働中にプラントは、例外なく、既存の物理的な状態についても、理論上対応するエンジニアリングデータの種類や形式についても、累積的に変化するという性質がある。そのため、運用時状態のデジタルツインは、包括的かつ正確に、信頼できる形で、現実とそのバーチャルなエンジニアリング表現の両方が反映するように同期させる必要がある。また同期後も必ず、変化は次々と運用時状態のデジタルツインを活用することができる。

 プロジェクトが継続して行われるプロセス産業の場合、デジタルツインの有効性は信頼された2次元概略図と3次元モデル形式によって表現され、常時更新される運用状態の情報にアクセスでき、統合できるかどうかにより決まる。「PlantSight」では、すべての関係者がクラウド/ウェブから状態を把握でき、既存のデータやツールのインタフェースにアクセスできるため、確実に変更をタイムリーかつ正確に取得および管理できる。

 「PlantSight」では、運用およびプロジェクト関連のエンジニアリングデータがシームレスに整合した状態に調整され、すべての部門と関係者が、矛盾のない表現に瞬時にアクセスできる。特に、既存プラントの場合は、プラントのドキュメントが最新の状態に維持されるため、資産情報を連携して、完成させる時間と手間が削減できる。同時に、それに伴い、情報の質も改善される。


参加者が注目した「iTwinServices」

 デジタルツインが強調されたYII2018だが、その中で、参加者が注目したソリューションの一つが、「iTwin Services」だ。

 「iTwin Services」は、インフラプロジェクトとインフラ資産のデジタルツインクラウドサービスで、ベントレーのCDE(コネクテッド・データ・エンバイロメント)内に展開して、ProjectWiseユーザとAssetWiseユーザの双方が利用できる。

 ベントレーのCDEの「ProjectWiseCONNECT Edition」ユーザは、既存のProjectWiseワークフローを乱すことなく、クラウドにプロビジョニングされた「iTwin Services」をどのプロジェクトでもインスタンス化できる。インスタンス化すると、「iModelHub」が透過的にプロジェクトの包括的な「iModel」を作成、保守する。「iModel」は分散型データベースで、作成中の成果物のチェックイン状態ごとに更新される変更履歴レッジャーが組み込まれている。エンジニアリング情報にそのような更新が発生するたびに、アプリケーション特有の情報ブリッジ処理によって、「iModel」のデジタルコンポーネントのデジタルアライメントが行われる。

 物理的な現場のリアリティモデリングか可能な範囲で、CDEに対応する「ContextShareサービス」が更新されたデジタルコンテキストは、「NavigatorWeb」と「iModel.js」の視覚化によって、マージされ、「iModelHub」により、認証、保護される。

 その結果、「iTwin Services」では、包括的にプロジェクトの状態の確認を継続して行い、「iModel」の変更履歴レッジャーのタイムラインに記録されている中から、任意の要求されたプロジェクト状態と同期することや、任意のプロジェクトタイムラインの状態間での変更について、視覚化や解析による可視化ができる。

 プロジェクトデジタルツイン用の「iTwin Services」は、2019年早期に提供が開始される予定だ。


インドネシアが4件のアワード受賞
 シーメンスとの資本・業務提携や、デジタルツインが話題になったYII2018だが、最終日の10月18日、最後のプログラムは19カテゴリーのファイナリストのプレゼンテーションからアワード受賞者を発表するセレモニーとなった。

アワード受賞者たち










 昨年は19カテゴリーのうち、10カテゴリーを中国が受賞し、中国が圧倒的な強さを見せたが、今回はばらけた。国別のアワード受賞件数は、インドネシア4件、米国2件、中国2件、豪州2件、英国2件、マレーシア2件、インド2件、カザフスタン1件、ポルトガル1件、オマーン1件だった。

 日本からは応募者はあったものの、ファイナリストに残ったのはゼロ。このため、ロンドンでも日本人によるプレゼンテーションは無かった。ただ、東芝のマレーシア現地法人である「Toshiba Transmissionand Distribution Systems Asia社」がマニュファクチャリング部門のファイナリストに選定されたが、アワードを受賞できなかった。

 シーメンスとの資本・業務提携に加え、デジタルツイン関連の話題に沸いた、YII2018だったが、事業戦略とテクノロジーが絡み合う意味においても、有意義なイベントだった。

 来年のYII2019は10月21~24日までの4日間、シンガポールのマリーナ・ベイサンズで開催される。日本からアクセスの良いアジア地域での開催のため、日本からも多くの参加者が見込まれる。

㈱重化学工業通信社
 

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