2018.6.20
アスペン・テクノロジー社 アントニオ・ピエトリ 社長兼CEO
資産最適化をポートフォリオに加えたライフサイクルに照準
プロセス産業の生産性向上から脱皮、高付加価値化事業に注力 |
プロセス産業向けにプロセスシミュレータなどのソリューションを提供してきたアスペン・テクノロジー社。これまでにプロセス産業向けに多くの生産性向上のためのソリューションを提供してきた。こうして築かれた事業をベースに最近は、資産のライフサイクルを対象領域にした資産管理ソリューションにも進出。2016年10月には、この分野のソリューションを持つM
t el社を買収、新たな事業領域への拡大を果たした。コンピュータ技術の進化を背景に、新たな事業領域に進出したアスペン・テクノロジー社のアントニオ・ピエトリ社長兼CEOに聞いた。 |
|
アントニオ・J・ピエトリ
(Antonio J.Pietri)氏
1996年、アスペンテックによるセットポイント社の買収とともに、入社。入社後は、統合ソリューションの導入を主に担当、2002年にビジネスコンサルティング副社長としてシンガポールに異動し、アジア大洋州地域上席副社長兼マネージングダイレクター・リージョナルオペレーションを担当。現在、アスペンテックの社長兼CEO。 |
ENN : |
従来、アスペン・テクノロジー社は、プロセス産業の生産性向上にフォーカスしていましたが、最近は様々な産業を対象とした設備の保守を含めたライフサイクルを扱うポートフォリオに加えました。その理由について、聞かせてください。 |
ピエトリ : |
私が、当社のCEOに就任したのは5年前ですが、当時考えたことは、「この会社を今後、5・10・15年間、存続させるために、どのような戦略が必要か」ということです。そこで、当社の強みを棚卸して、どう活用し、戦略を進化させていくかを考えました。その結果、顧客、株主に対して、企業価値を向上させるために、どのような新規分野に参入すべきかを検討しました。その結果、保守の分野に行き着きました。
|
ENN : |
保守に力を入れようと考えた経緯を教えてください。 |
ピエトリ : |
産業界において、オペレーショナルエクセレンスの動きは1970年代から始まっています。
1970年代から90年代が「近代化」、1980年代から90年代には「分散/オープンシステム」、1995から2005年には「IT生産」、そして1990年代から現在は、「インターネット/高度なソリューション・エンタープライズ」の時代を迎えています。
この技術における時代の流れに伴い、「インダストリー4.0」という新しい波が来ています。そこには、AIなどの新技術も網羅されており、これにより、世界のGDPが増大することが予想されます。
この時代を迎え、産業界はオペレーショナルエクセレンスを改善してきました。当社も、この流れの一翼を担っており、内部調査によれば、当社製品やソリューションを導入した顧客の新たな価値は、金額にすると500億ドルに達します。
ここで今後、さらに価値を創造するためには、何が必要かをもう一度、考えました。そこでライフサイクル全般でオペレーショナルエクセレンスを実現するために、資産最適化が次の生産性向上の推進要因になると考えました。
ここで言う「資産最適化」には、これまでのような資産の設計・運用における最適化に加え、メンテナンスにまで拡大して、資産の最適化を図るという視点まで含まれています。
|
ENN : |
資産のライフサイクルまでを視野に入れるわけですね。 |
ピエトリ : |
当社のビジョンの幅を広げ、これまでのプロセスの最適化を、資産のライフサイクル全般まで対象領域を広げます。これに伴い、スコープの幅・深さも増していくことを狙います。
今回、対象領域がメンテナンスにまで広げましたが、これは信頼性の向上につながります。
|
ENN : |
適切なメンテナンスが生産性を向上するという話は、よく聞いています。 |
ピエトリ : |
米国の調査会社であるARCが2015年に実施した調査によれば82%の機械のダウンタイムは、機械のコンディショニングが悪いことが原因です。メーカーがこの82%のダウンタイムを削減することは、信頼性の向上につながります。計画外のダウンタイムが企業に与える影響は、けっして小さくはありません。石油化学産業では、2~5%の生産ロスになりますし、製造業でも在庫や人件費が5~10%も増加したり、納入が遅れるなどの問題が発生したことがあります。
米国の製造業の団体が発表した調査によれば、世界の製造業のGDPの合計は14兆ドルに達しますが、計画外のダウンタイムの損失はこの10%、つまり1.4兆ドルにおよびます。にもかかわらず、メンテナンス分野には、この30~40年間、新しい技術が導入されていません。ソフトも事務的に日々の処理やトランザクションに使われるくらいで、本当の意味での活用とは言えません。そこで、当社は「メンテナンスのサイエンス」というフレーズを開発しました。
|
ENN : |
メンテナンスは、保守や修繕と考えられがちですが、サイエンスであるということですね。 |
ピエトリ : |
その意味は、様々な製品、技術を組合わせてメンテナンスを実現するということです。
例えば、リスク分析、プロセス分析、機械解析などの分析を行い、そのうえで、オペレーション、機械にガイダンスを与えるようなソリューションを提供します。
この1年から1年半の期間に、この分野は非常にダイナミックに動いており、多くの企業が、この点を重視しています。
そんな中で、今後数年間で、勝者と敗者を分ける要因を3つ見出しました。
第1に、データ管理です。データというと、ビッグデータで、収集・集約して構造化して処理するもので、成功できる企業はそれを学習につなげることができます。
第2に、アナリティクスソリューションです。機械学習の技術自体は、参入障壁のような物でなく、そのアルゴリズムはすでに公開されています。差別化を図る要素は、様々な技術をいかに組み合わせて、使い勝手を良くするということです。
第3に求められるものが、領域知識です。データを集約しも、分析して、意味するところが分からないと意味がありません。その時の文脈、意味が分からないとどうしようもありません。
|
ENN : |
今、挙げられた要素は、以前から注目されていたと思いますが、なぜ、ここにきて事業化を考えられたのですか。 |
ピエトリ : |
ハイパフォーマンスコンピューティング、クラウドコネクティビティなどの技術が出てきて、大量データを活用して、解析できるようになったからです。
これらのソリューションにより、当社はエッジコネクティビティに対応できるようにして、それを企業のパーソナルクラウドにつなげ、データをレポジトリに入れて、データをデータレイクやクラウドに移動、さらに解析して、実際に分析ができるようにしています。
|
ENN : |
一連の取組の一環として、2016年10月に保守分野に実績のあるMtel社を買収されたのですね。 |
ENN : |
これらのソリューションで、実績は上がっているのですか。 |
ピエトリ : |
地中海沿岸に最も複雑な製油所を持っているサラス社では、当社の機械学習のソリューションを活用することで、1~3%増益する見込みです。また、米国の鉄道会社であるCSXトランスポーテーション社では、当社のMtel機械学習のソリューションを使っています。これにより、機関車4,400車両の故障を検知して、予測しています。この技術の導入により、価値の創造ができたと思います。 |
ENN : |
Mtel社を買収されましたが、御社が買収の対象になる可能性もあります。買収を受け入れる条件は何でしょうか。。 |
ピエトリ: |
他社が買収を持ちかけるのであれば、魅力ある提案が必要です。社員、株主、顧客の利益に叶うような提案でないと受け入れられません。。 |
ENN : |
御社が2030年に存続しているためには、何が必要になりますか。 |
ピエトリ : |
生き残るためには、イノベーションの速度を加速しなければなりません。同時に変化に対応することも重要です。組織の敏捷性・俊敏性を高めて行くことが必要です。
|
|
|
|
|