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 2018.2.26
「デジタル化」で統合型IoTシステムの一翼担うエンジニアリングIT
統合・提携で拡大する事業ポートフォリオ

 デジタル化の波の中で、エンジニアリングITベンダーの役割は大きく変わった。特に2010年頃から始まった、大手測量機器や総合電機メーカーのエンジニアリングITベンダーの買収により、従来の役割はグループの機能の一部にすぎない。デジタル化の時代を迎え、インターネットでつながるIoTは、設備全体やインフラシステムすべてにまでにそのカバー領域を拡大した。そしてこの流れは今、「デジタル化」により加速されている。大きなポートフォリオの中で、エンジニアリングITが一翼を担う存在になった。

 エンジニアリングITソリューションを持つベンダーをターゲットとする買収劇は、2010年頃から始まった。

 2010年7月、スウェーデンの測量機器システムメーカーであるヘキサゴンが、インターグラフの買収を発表した。翌2011年5月には、米国の測量機器システムメーカーであるトリンブルが、構造設計CADのデファクトスタンダードとなっているフィンランドのテクラを買収した。


 大手測量機器システムによるエンジニアリングITベンダーの意図は見えなかったが、測量により得られる空間情報のモデル化を視野に入れていたと見られる。

 2010年代初めに、測量機器システムメーカーが主体的に買収を行った時代を経て、2010年代半ばになると、総合電機メーカーが買収の主役に躍り出た。

 2016年11月、ベントレー・システムズがロンドンで開催していたイベント「The Year in Infrastructure 2016」において、ドイツの総合電機メーカー、シーメンスとベントレーが「産業およびインフラのデジタル分野で協業する」と発表した。ベントレーは非上場企業であるため、買収の対象となりにくい面もあり、両社の関係は業務提携にとどめられたと見られる。

 さらに昨年9月、仏シュナイダー・エレクトリックが、英アヴィバの買収を正式に発表した。シュナイダーによるアヴィバの買収は2015年にも公表されたが、この時は条件面で折り合わず、一度、流れた経緯がある。それでもシュナイダーは粘り強く交渉を継続し、昨年9月、アヴィバの買収で合意。今年2月には米公正取引委員会も買収を承認し、正式に買収が認められた。

 2010年前後の測量機器システムメーカーによるエンジニアリングITベンダーの買収は、モデルの作成という一つの目的が浮かんだが、その後、時代は変わり、IoTやAIの時代になり、インターネットによる、IT情報がつながる(CONNECT)時代になり、各社がリアルな世界をITのヴァーチャル空間に作り上げる「デジタルツイン」を標榜するようになった。これを実現するうえで、エンジニアリングITベンダーのノウハウが活用されるようになってきている。


デジタルワールドの融合目指す、ヘキサゴン

 インターグラフを買収したヘキサゴンは、全世界に1万8,000名の要員を抱えながら、8事業部門で展開している。8事業部門とは、インターグラフの買収により発足した「プロセス・パワー&マリン(PPM)」のほか、「マニュファクチャリング・インテリジェンス」「マイニング」「農業」「セーフティ&インフラストラクチャ」「ポジショニング・インテリジェンス」「ジオスペーシャル」「ジオシステムズ(Leica)」である。

ヘキサゴングループの企業理念

 ヘキサゴンでは、8事業部門を横断した中長期のビジョンを策定しており、「SMART BUILD」「SMARTCITY」「SMART FACTORY」「SMARTGUARD」「Autonomous(自律的な走行できる、自動車、船、航空機、バスなど)」「SMART Content Program)(衛星・スキャナーなどで世界中をスキャン・更新・配信)。

 これらの中で、「SMART BUILD」は、ヘキサゴンPPMを中心に進められている「AEC(アーキテクト・エンジニアリング・コンストラクション)向けBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)である。既存の各種設計CADを前提にIFCフォーマットなどの業界標準にも対応している。「SMARTBUILD」の一環として、建機のマシンコントロール(ジオシステム/LEICAとポジショニング・インテリジェンス)、「EcoSys」「コスト・スケジュール管理(PPM)」モバイル環境(ヘキサゴンR&D)」など、ヘキサゴングループの技術を結集して取り組んでいる。

 この中の「EcoSys」は、2015年にヘキサゴンPPMが買収した、プロジェクトのコスト・スケジュール管理ソリューションだ。プロセス・電力・海洋業界を初期のターゲットにしているが、他の業界での大型投資を伴うプロジェクトへ展開し、ビジネスを強化させるのがヘキサゴンとしての事業戦略である。ヘキサゴンPPMは「SMART BUILD」「SMART CITY」「SMART FACTORY」などの中長期のビジョンを支えている。

 ヘキサゴングループの一貫した事業戦略は、スキャナーやセンサーで取得できるリアルワールドとソフトウェアで構築されるデジタルワールドのフュージョン(融合)である。

 ヘキサゴンには、「ヘキサゴンHUB」と呼ばれる研究開発センター組織があり、ヨーロッパを中心に約200名のメンバーで構成されている。R&D部門と連携しながら研究を進めており、「リアルワールド」と「デジタルワールド」を念頭に、各事業部門のニーズを収集し、実用に供するレベルに達しているという視点で、「IoT」「VR」「AI」などの技術調査を行い、即製品化へのリードタイムを短縮するため、社内で独自開発を進めるよりは、投資効率を見極めたうえで、優れた技術を有する企業を買収することを優先にしている。

 買収された企業の研究開発メンバーは、「ヘキサゴンHUB」に加わり、「EcoSys」(PPM)、地理空間ソフト製品群である「LUCIAD」(ジオスペーシャル)など、一連の買収はこの流れに乗ったものである。

 ヘキサゴンPPMは、エンジニアリングITソリューションを提供する一つの事業体だが、ヘキサゴングループは大きなポートフォリオをデジタルでつなぎ、新たなソリューション提供者として、融合により、新たなソリューションの構築に取り組んでいる。


「Transforming」による建設業の生産性向上図るトリンブル

 エンジニアリングにおける、連携するデータを活用することで、仕事のやり方を変えること(Transforming)を提案しているのがトリンブルだ。

 トリンブルは、エンジニアリングIT分野では、構造設計ソフト「TeklaStructures」を提供するベンダーとして、知られているが、測量機器システムのトリンブルの一部門として、ソフトを提供している。つまり、グループとしては、測量機器からソフトウェアまで、幅広く対応できる。それぞれから出力されるデータを有機的につなげることで、仕事のやり方を変え、建設業の生産性を向上することも可能だ。

トリンブルグループの事業構造

 トリンブルは、現在の建設業の立ち位置を、①建設業は非常に大きい市場を持ちながら技術導入が低レベル、②建設業は伝統的に変化が遅い、③先進的な建設業ほど、技術の導入に積極的、④統合されたワークフローにより技術は建設業の仕事のやり方を変えることができる、としている。

 そして、仕事のやり方を変えて行くには、仕事の内容、そのための知識領域、サービス、パートナーの能力を結集し、それを完成物のライフサイクルソリューション、建築可能なモデル、オープンな協力体制により、仕事のやり方の変更へとつなげる必要がある。そこでデータを可能な限りつなげることで、新たなプロジェクト遂行につなげるのだが、これがまさしく仕事のやり方の改善につながる。

 建設業にとって、トリンブルが提供するのは、ソフトだけではない。測量機器やシステムなどのハードウェアも提供されている。これらをプロジェクトやその関係者が活用することで、幅広い支援が可能になる。そして、この支援は、現在、BIM/CIMにも有効であるし、国土交通省が推進する「i-Construction」にも関わってくる。

 これを実現するには、今一度、個々う仕事とは、概念設計、エンジニアリング・デザイン、見積、プロジェクト計画、施工、さらにプロジェクトで使用したドキュメントやそのデータのハンドオーバーまで、すべてを個々に見直すことである。その結果、BIMに投資すれば、建設業の各フェーズで生産性を大きく改善することが可能だ。実際、土木工事では、プロジェクトの効率が30%改善され、エンジニアリング要する時間を30%削減、また燃料費の40%削減、建設機械の生産性の50%改善が実現された。

 建設工事では、プロジェクト期間の10%の短縮、オフサイトにおけるプレハブの30%増加、プロジェクト管理とスーパービジョンに費やす時間の35%の増加、フィールド管理コストの50%削減、正確性と作業のやり直しによる80%の生産性の向上、が実現された。さらにO&M(オペレーション&メンテナンス)では、コストの30%の削減が実現される。

 将来的には、ITを活用しながら過去の経験を総動員して、建設業の生産性を飛躍的に改善する。そして、無駄の無い建設(リーン・コンストラクション)を実現する。同時に、建設段階におけるプレハブ、業務の自動化も取り入れる。こうした取組により、建設業務のパフォーマンスやその利用を改善する。

 トリンブルでは、今後も、デジタル化による、建設業の生産性向上に様々なフェーズで取り組んでいく。


クラウド環境でポートフォリオ拡大したベントレー

 ベントレー・システムズは近年、「Going Digital(デジタル化)」を強力に推進している。昨年秋にシンガポールで開催した「The Year inInfrastructure 2017(YII2017)」において、かねてから進めてきた「CONNECT Edition」アプリケーションポートフォリオの完成を発表した。

 「CONNECT Edition」は、クラウドを活用した包括的なモデリング環境により、すべての分野のプロジェクトデリバリにおいて、複数のアプリケーションにおけるデジタルワークフローの相互連携を実現するものだ。ベントレーは数年かけて、インフラ、解析、建設、アセットパフォーマンスの4分野の各ソリューションのアプリケーションについて「CONNECT Edition」の開発を進め、完成した現在では、相互連携を可能にした。文字通り「つながる」環境を実現したのである。

 昨年11月にシンガポールの「YII2017」カンファレンスでは、製品に関する基調講演プレゼンテーションにおいて、完成した「CONNECT Edition」アプリケーションポートフォリオにより、新たに実現される、都市システム向けのデジタルワークフローが紹介された。取り上げられたのは、道路、鉄道、上下水道、空港のインフラの設計・建設・運用に関する4分野の横断事例だ。 横断的に活用できるようになったことこそ、「つながる」環境を実現した「デジタル化」の成果でもある。

 「デジタル化」は、2016年11月に業務提携契約を締結した、独シーメンス社との協業においても成果をもたらしている。

 
シーメンスのIT部門責任者、
ヘルムート・ルートウィッヒ氏
 昨年11月の「YII2017」では、シーメンスのヘルムート・ルドウィッグ氏が、ベントレーとシーメンスの両社が共同で推進してきたデジタル化に関するプレゼンテーションを行い、そこで「いつでもどこからでも、接続できるようになることは、物理上、機能上のどちらの 特性も併せ持つデジタルエンジニアリングモデルと資産にとって、これまでにないチャンスである。シーメンスのPLMは、製品のデジタルツイン、生産のデジタルツイン、パフォーマンスのデジタルツインにおいて、スタートを切っている。特に、パフォーマンスのデジタルツインを新しいレベルに押し上げる予定だ」と語った。

 またベントレーのリアリティモデリングソフトである「Context Capture」を使用して、デジタル写真からモデルをキャプチャして、これにより、プラントのコンテキストが提供される。そして生産のデジタルツインは、IoTオペレーティングシステムである「MindSphere」を介して、稼働中のプラントのIoT対応コンポーネントにリンクされる。

 そこで、ベントレーの「AssetWise」を使用すると、「MindSphere」を通したブラウザで構成され、3Dモデルのコンテキストにおいて、ユーザがパフォーマンスのデジタルツイン操作を行うことで、各種コンポーネント資産の稼働状態、具体的にはモータ振動の騒音などの障害などを検出できる。

 ベントレーはシーメンスとの協業により、両社のソリューションを有機的に結び付けることで、新たなソリューションの提供を可能にしている。


シュナイダーとの合併で設備のライフサイクルを視野に入れたアヴィバ

 2月9日、米国の公正取引委員会は、シュナイダー・エレクトリックとアヴィバの合併を承認したが、これにより、シュナイダーとアヴィバの合併が本格的にスタートする。

 この合併で期待されるのが、シュナイダーとアヴィバの持つ、ソリューションが有機的につなぐことが可能になることだ。アヴィバは、3次元CADのほか、エンジニアリングにおけるデータ・マネジメント・ソリューションなどを提供している。

 一方シュナイダーは、すでにインベンシスを買収しているが、インベンシスの持つDCS(分散型制御システム)から送られるデータのほか、プロセスシミュレータや設備資産管理などのソフトウェアがある。これらをつなげることで、プラントのライフサイクルに一貫して対応できるソリューションの提供が可能になる。

アヴィバ・シュナイダー統合後のソリューション

 アヴィバが提供するソリューションは、3次元CADの「AVEVA E3D」、エンジニアリングポータルである「AVEVANET」のほか、「AVEVAEngineering」「AVEVA Electrical」などのエンジニアリングITツールだ。一方、シュナイダーの提供するソリューションは、設備管理システムの「Avantis」など、ワンダーウェアの製品のほか、石油・ガスや石油化学プラントに使用されるプロセスシミュレータだ。

 アヴィバは昨年11月に英国ケンブリッジで「AWS(アヴィバ・ワールド・サミット)2017」を開催したが、そのテーマは「Digitalization(デジタル化)」だった。そこでデピュティCEOのデーブ・ウィールドン氏は「世の中は、IoTやAIを活用する時代を迎えようとしている。当社の顧客が、この流れに乗り遅れるようにことがあってはならない。そのためにもデジタル化に力を入れている」と語っているが、アヴィバもデジタル化が進む時代にあって、今後は、シュナイダーとの協業により、未来を切り開くことになった。

 2月に米国の公正取引委員会の承認により、シュナイダーとアヴィバの協業は本格的にスタートするが、今後、両社が協業により、どのようなソリューションを世に送り出しているかも注目される。


トータルソリューションに組み込まれるエンジニアリングIT

 クラウドの普及により、デジタル化されたデータが「つながる」ことが可能になった。これにより、エンジニアリングデータは施設や設備のライフサイクルデータとしての価値を持ちやすくなった。

 このことにより、ヘキサゴンは8事業がそれぞれ持つソリューションの「融合」に取り組み、トリンブルは自社の測量機器との連携を深めることで、建設業そのものの生産性の向上を実現しようとしている。

 ベントレーも、各ソリューションをクラウド環境で使用できる「CONNECT Edition」をリリースし、それにより、建設業の生産性の向上を実現しようとしている。そして同時に、シーメンスとの提携により、同社のクラウド上のIoTプラットフォームである「MindSphere」の環境を活用して、デジタルツインによる生産効率の向上を提案しようとしている。

 さらにアヴィバは、2月に米国の公正取引委員会がアヴィバとシュナイダーの合併を承認、今後、デジタル化技術を駆使して、設備のライフサイクルをカバーするソリューションの提供に向かおうとしている。

 エンジニアリングITベンダーはこれまで、設計の効率化を考えることを中心に事業展開してきたが、今後は、その役割は事業の一部に追いやられる。エンジニアリングITベンダーは生産を扱う総合ITベンダーの一翼を担う存在になる。



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