ENGINEERING IT ONLINE



    IT ONLINE トップページ / ENN-net / 購読・サンプルのお問い合わせ / バナー広告について


 2017.11.20
アヴィバ「AWS 2017」を創業の地、英ケンブリッジで開催
創業50周年、テーマは「DIGITALISATION:GETTING IT RIGHT」

 10月24日から26日、エンジニアリングITのアヴィバは、創業の地で現在でも本社のある英ケンブリッジで「AWS(アヴィバ・ワールド・サミット)2017」を開催した。1967年に操業したアヴィバは今年、50周年を迎えたが、来年1月にはシュナイダー・エレクトリック社との経営統合が控えており、次の50年はシュナイダーとともに作り上げる。世界40カ国以上から400名を超える参加者があった「AWS2017」だが、「プラント」と「マリン」の2分野で行われたユーザーミーティングでは、現場で直面する問題が議論され、実り多いイベントとなった。

デジタル化で生産性を向上

 「DIGITALISATION:GETTING ITRIGHT(デジタル化:その正しい捉え方)」これが今年の「AWS2017」のテーマだ。ITは進化しデジタル化が進み、IoTやビッグデータといった用語に接しない日がほとんど無くなった現在だが、産業界もデジタルの波を捉えて、的確に対応する必要がある。こうした世界のITの進化の波がタイトルにも反映された。

 冒頭挨拶に立ったデピュティCEOでCTO(チーフ・テクノロジー・オフィサー)である、DaveWheeldon氏は「過去3回の産業革命の主役は、それぞれ、蒸気・電気・情報だったが、第4の産業革命の主役は『リアルタイムの情報の力』だ。産業革命はいずれも大きな影響力を持ったが、第4の産業革命はスピードが伴う」と指摘した。また「こうした時代において、現実世界の出来事をヴァーチャルな世界で表現する『デジタルツイン』は必須だ」とも訴え、デジタル化の波が世界をリードする最近の状況を強調した。

 オープニングキーノートでは、デジタルストラテジストのGreg Verdino氏が「デジタル革命」というタイトルで講演、そこでは「コンピュータのプロセッシングパワーは人間の頭脳を超えようとしているが、コンピュータはより小型・低価格化している。この技術的進歩がつながる社会を築いてきた」と技術革新が最近のコネクテッドな社会を築いてきたと指摘した。「この技術革新は、銅鉱山の開発においてすら、厳しい労働から人々を開放した」とも語り、IT分野の技術革新が銅鉱山についても新しい状況を作り出している実態を紹介した。

 さらに来年1月のシュナイダーとの合併以降にCTOに就任する、Trond Straume氏は「原油価格が50ドル前後の推移している昨今、プラントのEPCのコストは従来以上に厳しくなっている。この状況に対応するには、ライフサイクルの効率を向上する必要がある」と指摘した。

 EPCとオーナーオペレーター(O/O)間には、データハンドオーバーに伴うギャップが伴うが、「ライフサイクルを通じて、効率化することでギャップによる生産性の低下を解消したい。それにはデジタルツインを活用する必要がある」とも語り、ライフサイクル全体の効率を向上させることの必要性について言及した。


データハンドオーバーについて問題提起

 データハンドオーバーの問題は、その後のプログラムの中でも議論された。

 25日のプラント分野のパネルディスカッション「DIGITALIZATION:POSITIVES, PITFALLS AND LESSONSLEARNED(デジタル化の積極性と落とし穴、そのレッスン・アンド・ラーンド)」では、現在、ロシアで建設中のヤマルLNGから同プロジェクトのリードIT&IM(インフォメーション・マネジメント)部門のVladimir Kirllov氏がパネラーとして登壇しデータハンドオーバーについて興味深い指摘を行った。

 
データハンドオーバーについて議論された
1日目午後のセッション
 「EPCにとって、プロジェクトがいつ終わるかが分かれば、データハンドオーバーの定義付けは可能だが、オーナーオペレーターのデータ活用に終わりはない」と語った。さらに「プラントの操業にデジタルは不可欠なものだが、必要なデータを決めるのは人間」と、必要なデータを決めるのが人間である点を強調した。

 このパネルディスカッションに参加したインドのDomodar Valley社(水力発電、再生可能エネルギーによる発電事業者)のエグゼクティブダイレクターであるHiranmoy Chatterjee氏は「AVEVA NETの導入により、プロジェクト期間の大幅な短縮が可能になった。当社は現在、再生可能エネルギーの導入により大幅にCO2排出量を削減する取組を行っているが、一連のプロジェクトをアヴィバ社のソリューションを活用して、効率よく進めたい」と語った。

 またドイツのエンジニアリング企業、MMEC MannesmannのバイスプレジデントのJorg Beuer氏は「デジタル化により、中小企業でも世界とアクセスできるようになる。デジタル化のためには、ビジョンを明確にする必要がある」と指摘。デジタル化は企業に規模に関係なく実現可能だが、その意味を持たせるには、デジタル化のためのビジョンが必要だ。この点にも人間の介在が必要で、デジタルを動かすのは人間である点が強調された。

 このパネルディスカッションを通じて、プラント建設プロジェクトにおいて、デジタル化は生産性の向上において、重要な役割を果たすことが異口同音に指摘された。しかし、デジタル化を適切に行うには、人の判断が不可欠で、何もかもがデジタルに任せられるものではない。

 またデータハンドオーバーにおける、EPCとO/O間のギャップについては、プラントのライフサイクルにおいて、シームレスに活用するデータであることを考慮して、EPCとO/Oがギャップを解消する必要がありそうだ。


シュナイダーと経営統合でも事業の基本路線は変わらず

 「AWS2017」は、アヴィバの創業50周年という記念すべき開催であったが、多くの参加者の興味は来年1月に予定されているシュナイダー・エレクトリック社との経営統合だったはずだ。

 この点について、アヴィバの社員に質問を向けると「大きなチャンスになる」というコメントが多い。アヴィバのエグゼクティブたちも、事業統合を前向きに捉えている。

 CRO(Chief Revenue Officer)のSteen Lomholt-Thomsen 氏は「アヴィバの顧客は、プラント・造船など、設備投資が大きい産業が主だが、シュナイダーは食品・飲料・電力などに顧客を持っている。これらの顧客を取り込むことでシナジーを発揮できる」と、対象となる顧客が広がることに期待を込める。

 CTO Designate のTrond Staraume氏は、「デジタルアセットに関するビジョンは変わらない。シュナイダーのテクノロジーを取り入れることで、モノがどう挙動するかまで扱えるので、よりデジタルツインのコンセプトに近づく」と、基本路線は変わらないものの、テクノロジーが幅と深さを持つようになることに期待している。創業50周年を迎えたアヴィバだが、次の50年はシュナイダーとともに築いていくことになる。

 また今回のイベントのテーマを「Digitalisation」としたことについて、デピュティCEOでCTOのDave Wheeidon氏は「テクノロジーがどんどん進化して、世界はいっそう緊密にネットワークでつながり、様々なデバイスが使えるようになった。これにより、情報へのアクセススピードが変わってきている。この時代に情報化をどのように進めるかが非常に重要」と指摘した。

 またシニアバイスプレジデントで、ポートフォリオストラテジーを担当するJulien de Beer氏は「アヴィバは1967年に設立した当時から、ドラフティングのCADではなく、データをクリエーションするためのソフト開発に取り組んできた。このため、Digitalisationというのは、スタート時からのアヴィバの考え方。データは今では、ビッグデータと言われるほどの大きな塊になっているが、大切なことは、そこから有益な情報を見つけること」と言う。

 一見、CADはきれいな図面を描くためのツールに見えるが、アヴィバは創業以来、データクリエーションを志向してきた。この志向による50年間の歴史が区切りをつけたところで「Digitalisation」と銘打ったことは、アヴィバの50年間を総括する意味もあった。

 創業の地、ケンブリッジで開催された「AWS2017」の10月25日の夜に開催された「Gala Dinner」には、理論物理学者のスティーブン・ホーキング博士が車椅子で来場するなど、予期しないハプニングもあった。

 「AWS 2017」では、「Digitalisaition」を強く打ち出したアヴィバだが、「E3D」による設計生産性の向上にも引き続き取り組んでいる。未来を視野に入れつつ、アヴィバのEPCの生産性向上への取組は今後も継続される。


CTO/デピュティCEO Dave Wheeldon 氏
インフォメーションモデルの構築を重視した半世紀

ENN:今回のイベントのタイトルを「Digitalisation:Getting it right」にした理由を聞かせてください。

 
デピュティCEO&CTO
Dave Wheeldon 氏
Wheeldon:電子化が進み、紙が不要になり、いろいろなデバイスが使えるようになってきました。これら一連のテクノロジーの進歩に伴い、世界はネットワークでつながり、情報へのアクセス速度が非常に速くなりました。こうした時代の変化に伴い重要なことは、「どのように情報化を進めるか」ということです。ここで敢えて「Getting it right」と言っていますが、この時代の流れを正確に捉えるには、インフォメーションモデルの構築が重要になります。こうした状況を捉えてタイトルを付けました。

ENN:現在の状況は第4番目の産業革命と言われていますが。

Wheeldon:過去3回の産業革命は、蒸気・電気・情報が主役でしたが、第4番目は「リアルタイムの情報の力」がフォーカスされています。過去3回の産業革命はいずれも大きな結果をもたらしましたが、第4番目の産業革命は影響力とともにスピードが非常に速くなりました。このため、変化を予測するのが難しくなっています。当社は、この変化をお客様が吸収できるような形でお手伝いしたいですね。

ENN:元々、CADはきれいな図面を描くためのツールでしたが、ここまで進化できた理由は何でしょうか。

Wheeldon:50年前に「CADCentre」として設立された当時から、図面に着目するのではなく、コンピュータを使ってモデルとして現実の世界を表現することにフォーカスしてきました。私が入社した80年代の初めは、3次元モデルの一つのイメージを作成するのに3時間もかかりました。しかし現在では、1秒間に100イメージを生成できます。

ENN:データとして考えた場合、他のソフトとのインターオペラビリティ(相互互換性)が問題になりますね。

Wheeldon:インターオペラビリティは、当社にとっても、20年間に渡る大きな課題です。図面のレベルで互換性を確保するのは、それほど難しくありません。例えば、AutoCADにアヴィバの図面を簡単に出力できます。フォーマットやレイヤーなどの決め事を合わせることは、比較的に容易です。ところが、モデルを詳細まで表現するために、15年間に渡って、中間的な表現が用いられてきました。ただお客様のニーズは、インターグラフのモデルのやり取りへのニーズが多く、インターグラフのモデルをアヴィバで出力する点では、多くの進歩がありました。

ENN:モデルはプラントの稼働においても重要なデータと思います。

Wheeldon:プラントのライフサイクルを考えると、デザインは最初の2~5年間にすぎません。しかし操業は50年以上の期間になります。その間、いろいろな情報が乱れ飛びます。データに中立的な情報基盤を研究開発してきましたが、それが「AVEVA NET」という商品です。これを2003年に商品化しましたが、現在では「Gateway」と呼ばれていますが、50種類以上の仕組みを一つのビューにまとめる機能があります。現在でも、当社は「いろいろな所から得られた情報を使うプラットフォームを作ろう」という取組を継続しています。


シニアバイスプレジデント/ポートフォリオストラテジー
                       Julien de Beer 氏
統合後に目指すアセットライフサイクルを通じたデジタルツインの確立

ENN:アヴィバにとって、CADとは何でしょうか。

 
シニアバイスプレジデント・
ポートフォリオストラテジー担当
Julien de Beer 氏
Julien:1967年に「CADCentre」として設立された時から、ドラフティングのためのCADではなく、データをクリエーションするためのソフトとして構築されてきました。当時から、データをいかに作成するかにフォーカスしていましたし、最近、売り出した「E3D」についてもその方向に変わりはありません。

今回の「AWS 2017」では、「Digitalisation」をテーマに掲げましたが、これは創業時から当社の考え方そのものです。現在は「Digitaisation」が浸透してきて、センサや計装システムから電子化された情報を取り込み、その情報の塊はビッグデータと呼ばれています。しかし重要なことは、そのデータの中から有益な情報を見つけることです。

ENN:アヴィバに限らず「Digitalisation」については、多くのベンダーが取り組んでいます。アヴィバの特徴はどこにありますか。

Julien:当社にとっての「Digitalisation」というのは、インテグレーションのことです。当社は来年1月にシュナイダーと統合しますが、そのソリューションまで含めれば、FEED、コンストラクションなど、ライフサイクルのステージにおいて、重複した情報を作成しなくても活用できるという意味で、インテグレーションと言っています。ライフサイクルのステージにおいて、情報が細分化されず、一度作って蓄えた情報が利用できる。これが当社の目指しているシングルプラットフォームの考え方です。

ENN:ライフサイクルを考えた場合、EPCからオーナーオペレーター(O/O)にデータを引き渡すデータハンドオーバーについても、EPCとO/Oの考え方にギャップがあります。この問題を解消する方法はありますか。

Julien:EPCとO/Oのデータハンドオーバーギャップを当社が解消することはできません。現状では、O/OがEPCに対して、ハンドオーバー・スペシフィケーションを渡して、それにより、O/Oに渡すデータを規定して、その部分を渡すのが一般的です。この時に、O/Oがアセットを長期間に渡って運用することを考えていないケースも少なくないため、改造工事やメンテナンスが必要になった時に、どうすべきかが分からないことがよくあります。この場合、EPCに尋ねたりしますが、結果的に二重三重の情報の生成が行われるのが現状で、無駄が生じています。

ENN:シュナイダーと統合されると、M&Aもしやすくなると見られますが、この点については、どのようにお考えですか。

Julien:アヴィバの売上規模は年間2億4,000万ポンドで、シュナイダーが4億ポンドです。またマーケット価値は、アヴィバが14億ポンドで、シュナイダーが18億ポンドです。合併により、30億ポンドの価値になりますから、今後、M&Aはよりやりやすくなります。

ENN:今後の事業戦略を考えた場合、どのようなソフトウェアが必要になりますか。

Julien:現在、デジタルツインにフォーカスしています。アヴィバはEPCのエンジニアリングデータを扱ってきましたし、シュナイダーは設備のO&Mに関するところで実績があります。統合されることで、ライフサイクルを通じたデジタルツインが可能になります。


特命CTO Trond Straume 氏
「統合後もデジタルアセットのビジョンに変更なし」

 
特命CTO
Trond Straume 氏
 来年1月にシュナイダー・エレクトリックと統合されますが、デジタルアセットに関するビジョンに変更はありません。

 これまで、当社はデジタルツインのストラクチャーに当たる部分にフォーカスしてきましたが、シュナイダーのテクノロジーを取り入れることで、「モノが挙動する」ということが加わるため、よりデジタルツインのコンセプトに近づいて行けると思います。

 3次元CADによる、設計の生産性の向上にも引き続き取り組みます。プラント用のソリューションでは、「E3D」にシフトして、より使いやすく、効率を向上できるソフトになっています。また造船用の「アヴィバマリン」についても、この数年で「E3D」のプラットフォームに移行する計画ですから、設計効率は向上します。

 現在、設計の生産性向上という点では、概念設計のフェーズで、フレキシブルに3Dが使用できるということが生産性を向上することでキーになります。ソフトとしても、概念設計に適用できるように、開発を行います。

 また設計の効率が最も向上するのは、複数のプロジェクトをまたいで、設計を再利用することなのですが、再利用できるコンポーネントがどうあるべきか、これがうまく検索できるようなシステムを構想しています。

 一方、ビュワーの「AVEVAEngage」は、最近のバージョンで、モバイルデバイスやタブレットが使えるようにしました。将来的には、設計のどのタイミングでも、ユーザーが設計モデルをレビューできる環境を整えたいと考えています。


CRO Steen Lomholt-Thomsen 氏
「シュナイダーとの統合による新規顧客の取り込みに期待」

 
CRO
Steen Lomholt Thomsen 氏
 CRO(チーフ・レベニュー・オフィサー)として、市場と売り上げのすべてを管轄しています。

 現在、原油価格が50ドル前後(インタビューは10月26日に実施)で推移していますが、お客様は技術にフォーカスして、より効率を向上させたいと考えています。この傾向に伴い、デジタルアセットやデジタルトランスフォーメーションへの注目が集まっています。

 プラント分野のお客様には、二つの傾向があります。一つは、新しいビジネスを取り込んで、実績を上げている企業です。その一方で、なかなか収益が上がらずにビジネスを見直そうとしている企業もあります。見直している企業には、まだまだ人員に余剰がありますから、今後も吸収・合併は出てくると思います。Amec Foster Wheelerがウッドグループに買収されましたが、これが最後になるということは無いと思います。中国、インド、韓国、日本のEPCコントラクターが市場に積極的に出てきています。競争が激しく、各社とも、マージンを削ってプロジェクトを受注しているのではないでしょうか。

 当社は現在、プラント、造船など、設備投資の大きな産業にフォーカスしていますが、1月に予定されているシュナイダーとの統合により、食品、飲料などの産業が顧客になります。総条項効果により、ポートフォリオが広がることを期待しています。



㈱重化学工業通信社
 

このホームページに関するご意見・ご感想をお寄せ下さい。
   E-mailでのお問い合わせ
掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。
著作権は 株式会社 重化学工業通信社 に帰属します。
Copyright 2002~2017 The Heavy & Chemical Industries News Agency, all rights reserved.