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 2017.10.20
ベントレー・システムズ、YII 2017 をシンガポールで開催
「Going Digital」がキーワード、デジタル化でBIMを進化

 10月10日から12日までの3日間、ベントレー・システムズはシンガポールのマリーナ・ベイ・サンズで「The Year in Infrastructure2017」(YII 2017) カンファランスを開催した。これまで、アムステルダム、ロンドンなど、ヨーロッパ地域で開催されてきたYIIだが、今年は初めて、アジア地域での開催となった。そこでベントレーが打ち出したキーワードは「Going Digital」。リアリティモデリング、クラウド上
 
  会場のマリーナベイサンズ
でソリューションを提供する「Connect Edition」を相次いで世に送り出すベントレーだが、今年、最も印象に残ったソリューションは情報交換を実現するソリューション「i-Model」のクラウドバージョンである「i-Model2.0」の発表だった。

 「Going Digital」これが、YII2017で示されたベントレー・システムズの基本方針だ。

 冒頭、CEOのグレッグ・ベントレー氏が基調講演を行い、建設業のデジタル化が遅れている現状に触れ、「建設業は最もデジタル化が遅れている産業。マッキンゼー・グローバル・
 
  基調講演中のグレッグ・ベントレーCEO
インスティチュートによれば、世界のインフラ需要の半分の生産性を向上させれば、1兆6,000億ドルの付加価値が生まれる」と指摘したうえで、「そのカギとなるのがデジタル化だ。デジタル化への投資により、建設業はリスクを低減でき、これに伴い、インフラプロジェクトは金融機関の融資対象になりやすくなり、資産価値を変えることができる」と発言した。

 現在の建設業のデジタル化の遅れは、当然のことながら、エンジニアリングITベンダーのビジネスチャンスにつながるものだ。グレッグ・ベントレーCEOも「大規模なインフラプロジェクトは、デジタル化とオートメーション化の理想的な機会。ベントレーはこの理想に向かって、クラウド、リアリティモデリング、ドローンなどを活用するための、デジタル化によるワークプロセスを提供する」と語った。

 この方針の下、ベントレーはYII2017の期間中、各ソリューションを発表した。

創業者キース・ベントレーが「i-Model2.0」を発表生産性を向上

 YII2017の期間中、ベントレーは様々なソリューションを発表したが、その中で注目されたのが「i-Model2.0」の発表だ。

 「i-Model」は、プラントやインフラ資産のライフサイクルに関連したプロジェクトの情報交換に使用できるソリューションだ。

 「i-Model」により、設計・建設・運用環境期間、およびそれらの内部で、簡単、完全、かつ正確に情報をやり取りできるようになる。ビジネスプロパティ、形状、グラフィックス
 
  講演中のキース・ベントレー氏
などのあらゆるコンポーネント情報をオープンな形式で共有し、複数のベンダーのビジネス、エンジニアリング、建設、運用アプリケーションに対応する標準インタフェースで操作できる。データのフォーマットに拘らずに、情報共有が実現できる画期的なソリューションだ。

 「i-Model2 . 0 」は、「i-Model」をクラウド上で使用するために開発された。クラウド上で利用するためのサーバーとして「i-ModelHub」を活用する。このソリューションにより、「i-ModelBridge」を介して、「ProjectWise」から自動的にアプリケーションを取り込むことができる。

 米国のエンジニアリング専門誌「ENR」のデザインファームトップ50社のうち、43社が「ProjectWise」の統合サービスについて、「手間がかかる」という印象を持っているが、これはファイル交換が自由にできないからだ。しかし、「i-ModelHub」を使えば、マイクロソフトの「Azure」環境でファイルを自由に交換できる。このため「ProjectWise」上で、データを変更でき、ワークフローの修正が可能だ。この機能により、変更を時系列を追って、着々と進む変更を可視化・短縮・分析できる。

 「i-Model」のデータ交換機能をクラウド上で活用できるようにすることで、エンジニアリングやプロジェクトフェーズにおける、生産性の向上が実現される。

「ContextCapture」を取り巻く二つの提携

 ベントレーは2015年2月に仏Acute3Dを買収し、リアリティモデリングソリューションを手に入れた。その後、「Acute3D」の商品名を「ContextCapture」として売り出している。
 「ContextCapture」は、デジタルカメラで撮影した画像から、3Dモデルを生成できるソフトだ。従来、空間情報から3Dモデルを生成するには、レーザースキャナーにより、点群データを取り込む方法が主流だったが、これには高額なスキャナーが必要になるなど、なかなか身近な方法として、定着しなかった。この点、デジカメ画像から3Dモデルを生成できる点は手軽にモデルが作成できるため、注目されてきた。各デジカメ画像をオーバーラップさせながらモデルを生成するのは、手間がかかるが、低コストでモデルが生成できるため、近年、急速に普及している。その後の改良により、レーザースキャナーによる3次元データにも対応できるようになり、その活用範囲も広がっている。

 この「ContextCapture」を通じた二つの戦略的業務提携は、ベントレーの事業領域を広げるのに大いに役立っている。

 昨年のYII2016では、独シーメンスとの戦略的な業務提携を締結したベントレーだが、YII2017では、シーメンスのIT部門のトップである、ヘルムート・ルートウィッヒ氏が基調講演に登壇。業務提携の成果について言及した。

 「ベントレーとシーメンスがデジタルエンジニアリングについて協力することで、過去に前例のない、ユビキュタスな関係が生まれている。ベントレーのBIMソリューションの提携により、両社によるデジタルツインは新たなレベルに達し、シンガポールのようなデジタル都市の実現を促進してきた。オープン化と相互互換性について、両社が協力することで、開発速度が非常に速くなった」と語った。両社の提携により、新たなソリューションも生まれた。ベントレーのリアリティモデリングソリューションである「ContextCapture」の3次元画像をシーメンスのクラウドベースのIoTシステムである「MindSphere」に取り込み、ベントレーの「AssetWise」と連携させることで、モーターの振動など、プラントの稼働状況を知ることができる。これにより、プラント稼働の「見える化」が可能になった。

 「ContextCapture」は、デジタルカメラで撮影した画像から、3次元モデルを生成するソリューションだが、このモデルをシーメンスの「MindSphere」に取り込むことで、プラントのアセット管理がリアルに行えるようになった。ベントレーの標榜する「GoingDigital」が示す、デジタル化の向こう側にある成果が確認された成果としては、非常に興味深い。

 そしてもう一つが、トプコンとの提携だ。

 すでに昨年、トプコン・ポジショニング・システムとベントレーは戦略的な業務提携契約を締結した。この提携の目的は、デジタルカメラを搭載したドローンで工事の現場を撮影した画像をモデル化することが目的だった。モデル化されたデータは、施主に稼働後のO&Mに活用できるように提供された。

 そして今年のYII2017の期間中に、トプコンとベントレーは従来の提携をさらに拡大する契約を締結した。

 その拡大した提携とは、一つは、コンストラクショニアリング・アカデミーの設立、二つ目はデザインのオートメーション化、そして三つ目はデータのエクスチェンジや共有に関するものだ。

 これら提携をよりスムーズにするのが、ベントレーのソリューション「i-model」だ。トプコンはすでに、自社開発のクラウド上で稼働する「MAGNET」というソリューションを保有しているが、「i-Model」を介して、データをベントレーの「ProjectWise」に取り込むことができる。双方のソリューションを有機的に結び付けながら、建設のスマート化を目指す。

 ベントレーが2015年にAcute3Dを買収し、リアルな画像から3Dモデルを作成する、斬新なアイデアに初めて接した時、ちょっとした驚きがあった。買収から2年でベントレーはリアリティモデリングという新たなソリューションを様々な分野に展開している。

 プラントエンジニアリングにおいても、リアリティモデリングの技術は、建設時の施工管理や稼働後のO&Mなどにも採用されている。

JICA支援プロジェクトが「Be Inspired」のアワードを受賞

 また10月12日のディナーでは、「Be Inspired2017」のアワード表彰式が行われた。

 今年の「Be Inspired」日本の応募者がファイナリストに選定されなかったが、国際協力機構(JICA)が支援した「ガンガ・アクションプラン」が「環境エンジニアリングにおけるBIMの進化」というカテゴリーでファイナリストに選定されていたが、YII2017の会期中のプレゼンテーションによりアワードを受賞した。日本人の受賞は無かったものの、日本の政府機関が支援したプロジェクトがアワードに輝いたのは、日本人にとっては嬉しい出来事だった。

事業が拡張しても見失わない原点

 オープン環境におけるデータマネジメント。

 ベントレーは創業間もない時期から、データのインターオペラビリティ(相互互換性)を前提としたソリューションの開発に取り組んできた。その姿勢が最も凝縮されたソリューションは「i-Model」だろう。あらゆるフォーマットのデータを管理することができる。そしてそのクラウドバージョンと言える「i-Model2.0」がYII2017で発表された。その発表をしたのは、創業者であり、現在もCTOとして活躍するキース・ベントレー氏だった。

 ベントレーの事業は、間違いなく、拡張・拡散しているが、オープン環境において相互互換性を重視する、ベントレーの原点ともいうべき考え方は、ソリューションの中心にある。

 YII2017においても、ベントレーの革新性と生真面目な姿勢を好感を持って見つめた。







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