ベントレーが「YII2016」で示したライフサイクルソリューション
コモンプラットフォームを支えるインターオペラビリティ 2016.11.18 |
11月1日から3日までの3日間、ベントレー・システムズがロンドンで開催した「THE YEAR IN INFRASTRUCTURE 2016 CONFERENCE(YII2016)」では、世界各国から集められたユーザー事例とベントレーの事業戦略が発表された。
そこで示されたのは、様々な施設のライフサイクルを管理するベントレーのソリューションだった。対象分野を拡大するソリューションだが、各ソリューションはコモンプラットフォームの上で稼働し、かねてからベントレーが重視するインターオペラビリティ(相互互換性)が確保されている。クラウドの時代を迎えた現在、その事業戦略は新たな結実を迎えている。 |
ベントレー・システムズは11月1日から3日までの3日間、ロンドンのヒルトン・ロンドン・メトロポールにおいて、「THE YEAR IN INFRASTRUCTURE
2016 CONFERENCE(YII2016)」を開催した。
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「Be Inspired」アワードウィナー |
毎年秋に開催される、ベントレー・システムズのイベントだが、今年もインフラストラクチャーのライフサイクルをカバーするソリューションが紹介されるとともに、そのユーザー事例が報告された。
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「YII2016」で基調講演中の
グレッグ ベントレーCEO |
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「ライフサイクルをカバーする」という事業方針は、CEOのグレッグ・ベントレー氏の基調講演にも反映された。そこで示された、ベントレー流のBIMの定義付けは、その事業方針を反映するものだった。
一般にBIMは、「ビルディング・インフォメーション・モデリング」を意味する。しかし、ベントレーでは、グラフの横軸にCAPEX、縦軸にOPEXをそれぞれ示し、横軸となるCAPEXにおける「BIM」の定義は「Better Project Delivery through Breadth of Information Mobility」、縦軸のOPEXには「Better Asset Performance through Depth of Information Modeling」とある。
投資を示すCAPEX側では、「携帯端末の手軽さで、より良いプロジェクトを提供」し、プロジェクトにより完成した資産を運営するOPEX段階では「情報モデルにより、より良い資産のパフォーマンスを実現する」ことが示されている。
ベントレーは、インフラ施設を計画・設計・建設・運営・保全といったライフサイクルに渡り、これらを効率よく実現することを事業方針としているが、すべてのソリューションがこの方向に向かっている。
今年1月、ベントレーは組織改正を行い、「デザイン・モデリング」「アナリシス・デベロップメント」「プロジェクト・デリバリー」「アセット・パフォーマンス」の4つのアドバンスメントチームを設置した。4チームのうち、「デザイン・モデリング」「アナリシス・デベロップメント」「プロジェクト・デリバリー」の3チームについては、CAPEX段階に必要なソリューションで、「アセット・パフォーマンス」については、OPEX段階で必要なソリューションを扱う。
これら4チームが、それぞれのカテゴリーで必要な製品の開発から販売まで責任を負うが、各チームは連携を取りながら、ユーザーニーズに応える。
例えば、今回の「YII2016」の開催期間中に、産管理の統合ソリューションである「Asset Wise」の「CONNECT Edition」がリリースされた。「CONNECT
Edition」は、ベントレーがクラウド上で提供するソリューションの総称だが、2年ほど前から、各ソリューションの「CONNECT Edition」が開発され、発売されてきた。「AssetWise」の「CONNECT
Edition」のリリースにより、「AssetWise」の複数の機能を連携できるようになるが、クラウド上で提供されることで、プロジェクト・デリバリーのソリューションである「Project Wise」との連携も可能になる。つまり、資産の設計・建設から稼働後の資産管理まで、ライフサイクルをカバーできるわけだ。
ソリューションをクラウド上に置くことにより、各ソリューションを他のソリューションと連携させ、新たな機能として利用できる。そして「ProjectWise」と「AssetWise」がクラウド上で連携すれば、ライフサイクルをカバーすることができる。
ベントレーにとって、「CONNECT(つながる)」は、長年に渡って、踏襲してきた事業方針により、高付加価値を実現している。その事業方針とは、「インターオペラビリティ(Interoperability:相互互換性)の重視」である。
ベントレーは創業時から、インターオペラビリティを重視することを事業戦略としてきた。このことがクラウドの時代を迎えた現在、新たに結実しようとしている。
この点について、CPO(チーフ・プロダクツ・オフィサー)である、ブッピンダ・シン氏は「当初のインターオペラビリティは低レベルのグラフィックスに関わるものだったが、現在のインターオペラビリティはビジネス上の財産になるものだ」と言う。
現在でも、開発で重視されるのは、「コモンプラットフォームを持つこととアジリティ(速さ)」(ブッピンダ・シン氏)と言う。特に、コモンプラットフォームがあれば、そこで、オイル&ガス、ユーティリティ、交通、ビルディングのデータを共通して活用できる。
こうしたテクノロジーのバックグランドは、ベントレーの成長戦略とも結びつく。戦略について、ブッピンダ・シン氏は「ライフサイクルに渡るソリューションを提供すること」と明言する。例えば、鉄道プロジェクトを想定した場合、そこには、基本設計・詳細設計・オペレーションがある。この他にも、信号やスイッチなどの機器・部品もある。これらをライフサイクルで管理するためのソリューションを提供できれば、一つのプロジェクトでビジネスチャンスを拡大できる。
ベントレーが創業間もない時期から重視してきたインターオペラビリティは、現在のコモンプラットフォームにつながり、そのことがライフサイクルに渡るソリューションの提供と深く関わっている。
「YII2016」は、ベントレーから送られる事業戦略などのメッセージと各カテゴリーのユーザー事例による「Be Inspired」の2部で構成される。
そのユーザー事例として興味深く聴いたのが、シェル・グローバル・ソリューションが「Inovation in Construction」のカテゴリーで発表したプレリュードFLNGプラントの建設プロジェクトの事例だった。
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シェル・プレリュードFLNGプロジェクト
について講演するミルコビッチ氏 |
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プレリュードFLNGプラント建設プロジェクトは、オーストラリアの洋上500kmの洋上で、海底ガス田の産出される天然ガスを液化するためのプラントを建設するもの。
FLNGプラントは世界初の試みでもある。ここでシェルはベントレーの「Construct Sim Work Packageserver」を活用した。その活用において、従来の3次元に時間軸を加え4次元管理を行い、これによりプロジェクトを管理した。この報告を行ったシェルのミリコビック氏は「『Construct
SimWork Packageserver』を使用することで、設計を見直しながらスケジュールがうまくコントロールできた」と言う。シェルは今後、4次元にコスト軸も加えた5次元を対象にしたプロジェクトの生産性向上に取り組む計画だ。
今回の「Be Inepired」において、日本からファイナリストに選ばれたのは、「Innovation in Reality Modeling」のカテゴリーにおける、早稲田大学の嘉納研究室と大林組が共同で実施した事例のみだった。
この事例は、ベントレーのレアリティ・モデリングソリューションである「Context Capture」を活用して、建設の施工確認を行う実証試験に関するものだった。「Context Capture」は、ドローンなどを活用して撮影したフォトグラメトリーデータから3次元モデルを生成するソリューションで、近年、国内外で注目を集めている。今後は、建設の施工管理ばかりではなく、老朽インフラやプラントの管理にも活用の道が広がる可能性がある。
11月1日から3日までの3日間に渡り開催されて「YII2016」だが、ベントレーによるエンジニアリングIT技術が確実に進化している状況が手に取るように実感できたが、その進化を支えているのがベントレーが長年に渡って重視してきたインターオペラビリティであることも分かった。
コモンプラットフォームの上に、幅広い分野のソリューションを乗せる。ベントレーの事業展開を今後も見守りたい。
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