「SPAR 2015P」で示された、「EyeCAD」活用
エリジオンと富士テクニカルリサーチが「EyeCAD」へのデータ取り込みを実現
2015.12.25 |
3次元レーザースキャニングの活用は、プラント・エンジニアリング業界においても活発化している。特に、プラントメンテナンスを手掛ける工事会社は、CADデータを持たない設備のスキャニングを行い、それをメンテナンスの施工に活かしている。が、スキャンニングデータは、これまで、施工会社に普及している3次元CAD「EyeCAD」との親和性が悪く、その活用の障壁となった。
この問題を解決したのが、エリジオンや富士テクニカルサービスといった点群処理ソフトを扱うソフトウェアベンダーだ。両社のソリューションは、工事会社にとっても強い味方になる。
|
|
「SPAR 2015P」のパネルディスカッション |
昨年末、12月11日に開催された「SPAR 2015P:第3回プラント3次元計測フォーラム」は、レーザースキャニングのプラントへの活用にフォーカスしたイベントだ。
3次元レーザースキャニングの技術がわが国に紹介されたのは、15年ほど前のことと記憶している。
当初は、3次元レーザースキャナーが高額なうえに、スキャナーにより得られる点群データを高速で処理できるソフトも無かった。このうえ、レーザースキャニングにより、高い精度のデータ取得を求めるユーザも多かったことから、3次元レーザースキャニング技術はなかなか普及しなかった。
しかしその後、レーザースキャナーは500万円前後に値下がりし、点群処理についてもCADベンダーや専門のソフトウェアベンダーが、高速処理が可能な点群処理ソフトを開発。低コストで、3次元レーザースキャニング技術を活用できるようになったことで、この技術も徐々にプラント業界でも使われるようになった。
もちろん、3次元レーザースキャニングにより得られるデータを基に採寸や計測するのだから、精度の問題は残る。しかし、多少の精度上の問題が大きな問題になるケースは限られている。3次元レーザースキャニングを活用すれば、容易に低コストでの計測が可能だ。
特にプラントのメンテナンスや改造には、有効で、メンテナンスやプラント建設の施工を手掛ける工事会社に、3次元レーザースキャニングの技術は普及している。山九、新興プランテック、高田工業所といった、わが国を代表する工事会社のいずれもが、なんらかの形で3次元レーザースキャニング技術を導入し、すでに、実際のジョブで使っている。
とはいうものの、工事会社で普及している3次元CADソフト「EyeCAD」は、ソフトの構造が他のデータを受け付けにくく、ユーザがその処理に苦労してきた。しかしその問題も、専門のソフトウェアベンダーの開発するソフトウェアによって、かなり解決されてきた。
この点は、今回の「SPAR 2015P」における関心事の一つだったが、二つのソフトウェアベンダーがこの問題を解決していた。「EyeCAD」の問題に取り組み、それを解決していたのが、エリジオンと富士テクニカルリサーチのソフトウェアベンダー2社だ。
エリジオンの「InfiPoints」は、大規模点群活用のために開発された、専用のソフトウェアだ。
その特徴は、
① レーザー計測により得た点群データを容量制限なく取り込むことができる
② レーザー計測で得た点群データについて、位置合わせやノイズを自動で行う
③ 設備の配置や搬入出ルートの検討、計画モデルと工事結果の比較など各種シミュレー
ションが可能
④ 点群データを用いて現場の状況を短時間かつ正確に3次元モデル化できる
⑤ 計測データを用いて検討した結果をもとに高品質な2次元画像やフライスルー動画を
出力可能 といった点だ。
|
エリジオンの「InfiPoints」における「EyeCAD」へのデータ活用 |
「データ取り込み」「データ前処理」「シミュレーション」「モデリング」「成果物作成」の各工程をワンストップでサポートできる。用途としては、プラント・造船・土木・建築の各分野だが、複雑な形状を容易に3次元モデル化できる。
多くの特徴を持つ「InfiPoints」だが、「データ前処理」では、基準点などのターゲットなしで計測したデータであっても、特徴形状から計測データ間の相対的な位置関係を自動認識して結合する。これにより、現場での計測作業が軽減できる。また、トータルステーションなどで計測したレファレンスポイントの座標値を入力して、点群データを座標変換することも可能だ。
ノイズ除去においては、複数の計測データを重ね合わせることで、見づらくなる部分や計測時に写り込んでしまった人影や車など、不要な点群を自動認識して除去することができる。点群から、壁や床および配管などの形状を自動で、平面や円柱といったフィーチャー(特徴形状)として認識する。そのため、寸法計測の際などに基準となる箇所を正確に指定できる。また円柱については、軸の位置や径を確認で可能だ。
また点群データに対しては、点同士の間隔を指定して間引きを行い、データ量を削減することもできる。これにより、見た目をできるだけ維持して配布用の軽量データを作成できる。実際に、閾値10mmで間引きして軽量化した時には、2億1,000万点・6GBの容量を持つデータを1,000万点・290MBにまで95%軽量化している。
「モデリング」においても、いくつかの特徴がある。計測データに含まれる任意の構造物について、点群データからメッシュにより自動で生成する。作成したメッシュデータは、STL.VRML.OBJ形式で出力して各種CADに受け渡すことができるため、現場の設備などを手軽に3次元モデル化することが可能だ。ここでは、インターグラフ社の「EYEpoints」で取り込めるファイル形式で出力できる。
点群データから配管形状を自動でモデル化する。直管やエルボー、フランジなどを一括抽出できるほか、規格部品に自動置き換えすることも可能だ。また計測時の死角などで点群が一部欠落した箇所を自動で補完し、さらに新設の配管などを手動で追加作成することもできる。
また点群データから、設備の構造物や3次元CADモデルを自動で作成できる。自動作成した3次元モデルを点群データ内で移動させながら、周囲の壁・設備との干渉の有無を確認し、既存設備の最適な搬出ルートを検討するといった活用が可能だ。シミュレーション後の実際の施工準備においては、3次元モデルを基に、施工図を作成することで、現場採寸の回数を低減させるなど、業務の効率化を図ることができる。
これらの機能により、① 仮想撤去・移動、レイアウト検討 ② 躯体・配管のモデル化
③ 設備の搬入シミュレーション、などが可能になる。
富士テクニカルリサーチは、ソフトウェアとともに産業界向け製品設計開発コンサルティングなども手掛ける企業だが、同社の3次元レーザー計測データCAD化ソフトウェアである「Galaxy-Eye」は、「3次元レーザー計測データを瞬時に可視化!
軽快なデータ処理!」を実現したソフトウェアだ。
|
「GalaxyEye」による点群データの「EyeCAD」モデルデータの移動 |
「Galaxy-Eye」には、データ処理、シミュレーション、モデリングの3機能がある。データ処理機能には、自動ノイズ機能があり、点群データの中から計測ノイズと見なされる浮遊点を自動的に抽出し、除去する。レーザー計測によるデータを有効利用するためには、計測ノイズをきれいに取り除く必要があるが、煩雑なノイズ除去の処理を自動化することで、前処理の負担を大幅に減らすことができる。
またすでに平面図などの2次元配置図データがある場合は、それを基準として、位置合わせを行うことができる。これにより、計測データの座標系での作業だけではなく、従来の平面図に沿った座標系で作業することが可能だ。同時に、フロアレベルも任意に設定できるため、位置合わせの難しかったフロアを超えた位置合わせも可能になった。
ウォークスルー機能を使えば、簡単な操作で3次元点群データの中を自由自裁に動き回ることができる。この機能により、データ内を歩き回ることで、現場の状態を一目瞭然とし、フライスルー機能では、天井付近や外から建物内部を俯瞰した視点など、実際には、観察できない視点からの観察を可能にする。
シミュレーション機能を使えば、大きさ、長さを把握するための、寸法計測機能をはじめ、搬出入を検討するための干渉チェック機能、設備や備品を配置検討するためのレイアウト検討機能が搭載されている。シミュレーション機能を利用することで、計測現場を舞台とした問題の検討をデスクトップで行うことができる。
シミュレーション機能により、2点間の距離や3点がなす角度を計測でき、指定したルートを通る形状と点群データの干渉をチェックすることが可能だ。干渉した点群データは表示色が変更されるため、干渉する部分を容易に確認できる。
レイアウト検討用のモデルデータを点群データ内で作成し、レイアウトを検討できる。また外部のCADデータを読み込むことで、点群の中に、設計CADを自由に配置可能だ。現場での配置検討や、実際の取り回しなど、現実のデータを用いた設計が可能になる。
モデリング機能は、プラントのモデリングを実現するために、主要な形状(配管・鋼材・平面)を対象としたもの。モデリング機能を利用することで、現物を基にした、形状データを取得することができる。
点群から配管CADを作成することができ、点群データに適合する規格形状をライブラリ上で探索し、最適な規格形状を作成する。また、ライブラリを編集することにより、新しい規格形状を登録できる。
メンテナンス工事を手掛ける施工会社では、インターグラフ社の「EyeCAD」が使用されることが多いが、「Galaxy-Eye」から「EyeCAD」用インタフェースファイルを通して、「EyeCAD」の点群データ処理ソフトウェアである「EYEpoints」にデータを落とし込み、3次元CAD「EyeCAD」にデータ化することが可能だ。
また、任意の配管CADを起点として、配管CADを空間中に自由に作成できる。点群がなくても作成できるため、計測データがうまく取れていない部分を補完することが可能だ。
さらに「Galaxy-Eye」では、点群データから形状データをモデリングするだけでなく、テーブルデータとして入力することも可能だ。設計寸法からの入力や新設の検討など、用途が広がる。
わが国では、メンテナンス工事を手掛ける工事会社では、「EyeCAD」を活用している例が多い。施工業者はメンテナンスや改造など、ブラウンフィールド案件を対象とすることが多く、3次元レーザースキャニングの活用は、工事の精度向上や効率向上に不可欠な要素だ。しかし、「EyeCAD」は他ソフトとの親和性が悪く、レーザースキャニングデータの活用が困難だった。
この問題をエリジオンと富士テクニカルリサーチは解決した。今後、施工を中心に展開する工事会社は、両社のソフトにより作業効率を改善し、精度の高い施工を実現するはずだ。 |
|
|
|