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  プラントコストインデックス 「ENN-PCI」 2025年 第2四半期
AACE International 日本支部
ENN-PCI 委員会

1. はじめに

2025年第2四半期(4~6月期)のプラントコストインデックスENN-PCIを算定し、2000年からの推移を図1に示した。今期は前期比2.0ポイントの下落となった。主な要因は、軟調な鋼材価格及び特殊要因としての減価償却費(四半期平均で算出)※1の下落である。後述する将来予測のとおり指数自体の上昇レンドに変化はないと見ている。


 図1 プラントコストインデックス ENN-PCI の推移


2. 世界経済

現下の世界情勢は、通商面での米中の対立や中東における紛争が緩和しており比較的落ち着いた状況にある。経済的にもインフレが落ち着いたこと、日本とEUが積極財政に転換したことも世界経済には好材料である。米国の景気もトランプ関税の消費者への転嫁が50%程度と見られており、目立った物価の上昇がないことから底堅く推移している。しかし、雇用関連の指標に変調の兆しが見える。ADP雇用統計※2は10月の週次報告で連続して急な減少を示した。チャレンジャー人員削減数※3は前年同月比175%の増加となった。これらだけで景気減速のシグナルが点滅したとは言えないが、生成AIの普及が雇用に影響を与え始めた可能性に注意を向けておきたい。

中国の物価は、消費者物価が9月で前年同月比1.2%増、生産者物価は同2.4%の減だが、数カ月の推移は若干の持直し傾向にある。中国政府は国内の過剰生産と企業間の過当競争の抑制に取り組んでいるが、デフレ対策として効果を上げてきたのか引続き検証したい。

  (*1)ENN-PCI減価償却費減の特殊要因
   売上高に対する減価償却費の比率。4半期平均を使用しているが、建設業の2024年
   第2四半期が通常の四半期の1.8倍あり、この期が計算から外れたため低下した。


  (*2)ADP雇用統計
   米国のオートマチック・データ・プロセッシング社(給与データ代行サービス会社)が、
   自社のデータを利用して全米の非農業部門の雇用者数を予測して毎月「雇用統計」公表
   の前に発表している。


  (*3)チャレンジャー人員削減数
   米国のチャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマス社(再就職支援会社)が毎月発
   表する雇用者が報告したその月の解雇者総数。



   表1 反応器類(コスト要因PCI)
                   2000年=100

  ■プラント計


3. 我が国の経済

前号と同様の見方が続くが、日銀短観(7-9期)は雇用人員が今後さらに不足気味になるとの企業の見方を示している。法人企業予測調査も同様の結果である。実質賃金も9月は前年同期比1.4%減であり、9カ月連続のマイナスとなった。時間外労働規制の影響なのか所定外労働時間も前年比4.0%もの減少になっている。一方で、上場企業の7-9期の四半期決算は、自動車産業を除いて収益予想が上振れている企業が多く、売上高の進捗率も概ね順調である。製造業の設備投資は建設コストの上昇から先行きの判断は若干慎重になっているが、年度初めの計画ペースは維持されている。


4. ENN-PCIの変動要因

ENN-PCI(コスト+需給要因)は246.1となり、前期比2.0ポイント下落した。主要材の厚中板、ステンレス板は小幅に下落し、パイプや形鋼も続落した。人件費は上昇を続けているものの、材料価格が軟調なため、製缶機器は下落基調が続いている。また、機械類(クレーン、ボイラー等)、電気機器類(変圧器、配電盤等)は引き続き上昇しているが、機器・機械類全体では続落となった。工事費については、人件費が引続き上昇する一方で、建設業の減価償却費が大幅に低下した。これらの機器費、工事費の下落を受けて、今期のENN-PCIは約5年ぶりの下落となった。

  ・表2 ENN-PCI(コスト要因)PDFをダウンロードする
  ・表3 ENN-PCI(コスト要因 + 需給要因)PDFをダウンロードする


  ※PDFを御覧頂くには、ENN 2025年12月10日号(Vol.588)「プラントコストインデックス ENN-PCI」
   52ページに掲載されているユーザー名・パスワードの入力が必要になります。



5. ENN-PCIの将来予測

鉄鉱石、石炭先物は前期に引き続きそれぞれ1トン当たり100ドル前後、110ドル前後で推移し、全体として落ち着いている。ニッケル価格(LME)はインドネシアの供給急増により14,500ドル前後で弱含み。銅価格は10,500ドル前後まで上昇となったが、米FOMCの9月の利下げで思惑買いが入った可能性がある。現在、銅の需給はバランスしているが、今後AI関連の実需の増加により価格が上昇する可能性がある。総じて材料価格には下落傾向が見られるものの、ENN-PCIは今後も堅調に推移するものと考えられる。人手不足による供給制約は人件費の継続的な上昇圧力として作用し、また、老朽化設備の更新、炭素関連投資などの需要は依然旺盛であり、設備投資マインドも維持されている。



  ※ AACE International は米国に本部を置く国際コストエンジニアリング推進協会
   (The Association for the Advancement of Cost Engineering International)である。
   そのAACE日本支部がENN-PCI委員会を設立し、我が国のコストインデックスとして
   ENN-PCIの執筆を担当する。 ご参考:
https://www.aace-japan.org/


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